おまきざるの自由研究

好奇心の赴くままに

その完成度94.89%:パトリック・チャン選手は羽生選手に肉薄した【2016年4大陸選手権FSより】

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はじめに


2016年の4大陸選手権が幕を閉じました.

結果はフィギュアスケート男子シングルはパトリック・チャン選手がボーヤン・ジン選手を上回り逆転優勝.ボーヤン・ジン選手のインターナショナル大会初優勝がかかっていましたが,見事阻止.

チャン選手がベテランの意地とプライド,そして今季ベストとも言える演技を見せてくれました.素晴らしかったです.

得点に目を奪われるのではなく,完成度に注目しよう

ではパトリック・チャン選手(以下チャン選手)のFS演技のプロトコルを見てみましょう.

 

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出典:http://www.isuresults.com/results/season1516/fc2016/fc2016_Men_FS_Scores.pdf

 

プロトコルは相変わらず細々していて非常に見難いです.主要データをExcelにうつしましたので,表をご覧下さい.

 

パトリック・チャン選手の2016年4大陸選手権のFSの得点        
演技順番 FS 基礎点 GOE 基礎点満点 GOE満点
    1 4回転トウループ+3回転トウループ 14.6 2.43 14.6 3
    2 3回転アクセル   8.5 2.43   8.5 3
    3 4回転トウループ 10.3 2.14 10.3 3
    4 ステップシークエンスレベル4   3.9 2   3.9 2.1
    5 足換えシットスピンレベル3   2.8 1.14    3 1.5
    6 3回転アクセル+2回転トウループ 10.78 1.71 10.78 3
    7 3回転ルッツ+2回転トウループ+2回転ループ 10.01 1.1 10.01 2.1
    8 3回転ループ   5.61 1.3   5.61 2.1
    9 3回転サルコウ   4.84 1.5   4.84 2.1
   10 フライングシットスピンレベル4   3 1.14   3 1.5
   11 3回転フリップ   5.83 1.3   5.83 2.1
   12 コレオシークエンス   2 1.7   2 2.1
   13 足換えコンビネーションスピン3姿勢レベル4   3.5 1.29   3.5 1.5
  合計 85.67 21.18 85.87 29.1
  演技構成点 97.14      
  総計(基礎点+GOE+演技構成点) 203.99    

 

 

 

演技順番6の3回転アクセル+2回転トウループは,前回のGPファイナル時には3回転ルッツ+2回転トウループだったので,難易度が上がっています.それに伴って前回より加点されていますが,非常に惜しかったのが演技順番5の足換えシットスピンがレベル3だったこと.これがレベル4だったならノーミス.基礎点(+0.2点)とGOEの加点があったでしょう.

特筆すべきは演技構成点です.ものすごい高得点の97.14点.これは羽生選手の2015年12月NHK杯FSの演技構成点97.2点に匹敵します.GOE(出来映え点)も70%を超えています.素晴らしい演技でした.結果,FSの合計は203.99点となりました.これは,羽生結弦選手(以下羽生選手),ハビエル・フェルナンデス選手(以下フェルナンデス選手)に次いでFSで3人目となる200点超えです.しかしながら,200点という点数そのものにはあまり意味がありません.重要なのは,高難度プログラムを組み,高い得点率すなわち完成度を追求することなのです.点数はその年の採点ルールで変わってしまいます.今年の200点は来年の200点ではありません.どのようなプログラムに挑戦し,どこまで自分を出し切ったのかが大切なのです. 

超高難度プログラムにどう対抗するのか?

プログラムについては,チャン選手は4回転ジャンプを前半に2つしか入れてません.たった1年で「しか」なんて表現になったように,2015/16年シーズンは男子フィギュアのジャンプが前年度までと様変わりした新時代となりました.FSでは羽生選手とフェルナンデス選手が4回転ジャンプを3つ(うち一つを後半に!),さらにボーヤン・ジン選手はなんと4つ(うち二つを後半!!)をプログラムに組み込むという,まさに4回転ジャンプを"跳べて当たり前なジャンプ"にしたシーズンなのです(注:スタミナをより消耗する演技後半のジャンプは基礎点が1.1倍になります)

羽生結弦選手は男子フィギュアを「4回転ジャンプは跳べて当たり前」な競技にした:新時代とは異次元の出来事が普通になること - おまきざるの憂鬱

 

すでに述べたように,4回転ジャンプをこれでもかと繰り出す高難度プログラムをひっさげる若い選手の中,1990年12月31日生まれで25歳となったチャン選手がプログラムに組みこんでいる4回転ジャンプは2つしかありません.そもそもプログラム構成で彼らより劣っているのです.

今回の4大陸選手権,ボーヤン・ジン選手はステップ・スピンのレベルが4じゃない演技が3つありましたが,それ以外はすべて加点されており基礎点だけで101.20点でした.これは脅威的な得点です.世界でも彼にしか滑れない超高難度プログラムです.

そんな強敵がいる中でも,チャン選手に勝つためにしなければならないことは,演技をミスしないこと,GOE(出来映え点)と演技構成点をできるだけ多く獲得することしかありません.

そして,チャン選手はボーヤン・ジン選手を上回る得点を叩きだしました.自身のプログラムを高い完成度で滑りきったからこそできたのです.

もうおわかりだと思います.今回のチャン選手がもの凄かったのは,その演技の完成度の高さにあります.得点率すなわち完成度は94.89%.これは羽生選手が2015年NHK杯で見せてくれた,男子フィギュアスケートの歴史の転換点とも言える演技の完成度95.7%に肉薄します.2015年GPファイナルのフェルナンデス選手の91.67%をも上回っています.

FSで200点超えした3選手の2015/16シーズンの主な得点と得点率      
    基礎点 GOE 演技構成点 合計
パトリック・チャン選手2016年4大陸選手権のFS得点 85.67 21.18 97.14 203.99
パトリック・チャン選手2016年4大陸選手権のFS得点率(%) 99.77% 72.78% 97.14% 94.89%
           
パトリック・チャン選手2015年12月GPファイナルFSの得点 77.32 19.44 96.08 192.84
パトリック・チャン選手2015年12月GPファイナルFSの得点率(%) 93.02% 68.94% 96.08% 91.25%
           
羽生選手2015/16シーズンFSの満点 95.79 30.00 100.00 225.79
羽生選手2015年11月NHK杯FSの得点 95.79 23.08 97.2 216.07
羽生選手2015年11月NHK杯FSの得点率(%) 100% 76.93% 97.2% 95.70%
           
羽生選手2015年12月GPファイナルFSの得点 95.19 25.73 98.56 219.48
羽生選手2015年12月GPファイナルFSの得点率(%) 99.37% 85.76% 98.56% 97.21%
           
フェルナンデス選手2015年12月GPファイナルFSの得点 89.24 15.41 96.78 201.43
フェルナンデス選手2015年12月GPファイナルFSの得点率(%) 98.46% 52.96% 96.78% 91.67%

 

チャン選手の2015年GPファイナルのFS演技は,実は完成度が90%を超えていました(91.25%).今回の4大陸選手権ではジャンプの難易度を上げた上で,基礎点,GOE,演技構成点すべての項目で完成度を高めて,羽生選手と渡り合う領域に到達しました.その意味で,2016年4大陸選手権は最後のベテランが男子フィギュアスケート新時代に間に合った試合と言えるでしょう.

世界選手権,そして2016/17シーズンはどうなる?

でも,もしかしたらチャン選手にとってはこれが精一杯なのかもしれません.完成度はまだ上げられるとはいえ,ジャンプについての伸びしろはそう多くない気がしてなりません.あるいは新たな4回転にチャレンジするのでしょうか?

チャン選手,羽生選手,フェルナンデス選手,もちろん他の選手たちは,2年後のオリンピックに向かって超高難度プログラムで挑みかかってくるもっと若い選手たちと渡り合わなければなりません.

今シーズン最後の試合となる3月の世界選手権は,羽生選手が絶対王者として君臨するのか,それともチャン選手が壁となって立ちふさがるのか,あるいはフェルナンデス選手が,ボーヤン選手が,宇野選手が・・・

そして,来季2016/17シーズンはどうなるのでしょう?成長著しい若手に対してGPシリーズ王者,そして世界選手権王者はどう立ち向かうのでしょうか?そして次のオリンピックは?

ありふれた表現しか出来ませんが,こんなにも素晴らしい選手たちをリアルタイムでみることができる私たちは幸せなんだと思います.

ではまた!

 

【追記】2016年2月23日 改めてチャン選手FSの演技を見たら目頭が熱くなりました.美しい.永久保存ものです.

【さらに追記】2016年2月25日 必要にして十分かつ抑制の効いた衣装が肉体美をより強調し,頭から足まで,指先からつまさきまで,エッジの先までも何もかもを自らの意志で支配した演技.何度も何度も見たくなる演技でした.