おまきざるの自由研究

好奇心の赴くままに

霊長類であるヒトは,同じく霊長類であるサルを食べる生き物である

【スポンサーリンク】

あなたは「サルを食べることは霊長類としてありなのか?」と問われたら何と答えますか?

f:id:browncapuchin:20170728005518p:plain

はじめに

この記事を 猿を食べることは同じ霊長類としてありなのかどうか問題 - 29歳コンサルタント女子が異世界から思うこと を読みました.

肉球(id:mecchanikukyu)さんのブログは2017年6月,VALUに関する数エントリがホッテントリ入りしていたのを覚えてます.

「猿を食べること・・・」の主題の一つは「炎上ブロガーイケダハヤトが率いる高知の信者たちのお話し(本文より引用)」.

その点について筆者は何も言うことありません.

しかしながら,タイトルにある「猿を食べること」については補足しておいたほうが良いと思ったので,長文になりすぎない範囲でこのエントリを書きました.画像はありませんので安心してお読みください.

狩猟対象としてのニホンザル

日本に生息している野生のサルはニホンザルです(外来生物のアカゲザルとタイワンザルについては拙エントリーをご覧下さい)

ウィキペディアには「日本の獣肉食の歴史」というページがありますが,ニホンザルについては「東北地方北部のニホンザルの分布変遷について」という論文[1]から簡単に紹介します.

ニホンザルが狩猟対象となったのは江戸時代,1700年前半とのこと.農作物を荒らす(冷害などによる飢饉時にはその傾向がさらに強まる)害獣駆除の一環として,また薬として胆嚢や頭の黒焼きを利用するのが目的で狩られました.

ただし,ニホンザルは樹上や崖も軽々と移動します.ヒトが片手に剣・刀・槍などを持って狩ろうとしてもそう簡単にクエストクリアとはいかなかったかもしれません.

しかしながら,明治に入るとニホンザルは乱獲されるようになりました.

大きな出来事として挙げられていたのが,明治10年布告の鳥獣猟規則によって16歳以上なら銃猟ができるようになったこと,そして洋式ライフル・村田銃等の火縄銃にくらべ格段の性能アップを遂げた銃が普及し始めたこと.これらによってサルの生息域は急速に減少したと推測しています.

より高性能な武器を携えたガンナーの増加がニホンザル狩猟に拍車をかけたのですね.

論文は東北地方の岩手・秋田・青森について書かれたものですが,多かれ少なかれ同様の現象はニホンザルが狩猟獣から除外される1947年[2]まで日本各地で起きていたかもしれません.

また,論文にはニホンザルの肉が一般に流通していたかどうかについての記載はありませんでした.もしかしたらニホンザルの肉を食用にしていたのはごく一部の地域だったのかもしれません.

このことを裏付けると思わせる記述は秋田のマタギに関するHPにありました.

サルの肉を食べられたのは昭和の初め頃まで,今では口にできない幻の味である.寒中のサルの肉は,黄色の脂がこってり付き,砂糖で味付けしたような甘味があり,比内鶏より数段美味いと記録されている.大正の初め頃までは,毛皮一枚でクマの毛皮三枚分に相当するほど高価だった.

 美味な肉に加え,サルの肝は薬の効き目がクマ以上だったという.サルの胆は,子供の食アタリ,カン,馬の突き目の妙薬として高く売れた.かつて仙北郡角館町のイサバ屋には,毛つきのままサルをぶら下げて売っていた.その枝肉を味噌漬けにし,焼肉として食べるなど,冬の旬の味として珍重されていた。[3]

 

前述した通り,2017年現在,鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則には,ニホンザルは狩猟鳥獣(例えばヤマドリ,キジ,カルガモ,ニホンカモシカなど)には含まれていません.ニホンザルを捕獲する際には鳥獣捕獲等事業の認定を実施地域の都道府県知事に提出することが記載されています[4].

狩猟免許を持っていても,ニホンザルを勝手に狩ってはいけないのです.

なお,これはあまり知られていないかもしれませんが,ニホンザルは農作物を荒らす有害鳥獣とされています.その捕獲頭数は2010年度で約20,000頭[5].

そして,多くの自治体は捕獲したニホンザルを殺処分しています[6].

肉球さんが述べている「サル肉を食べた方たち」がどのような経路で肉を入手されたかは知りませんが,法的に問題がないかどうかについては気になるところです.

ブッシュミート

肉球さんのエントリには「上質なお肉はビーフさん,チキンさん,ポークさん,子羊さんで十分でございます」との文があります.

ご存じの方も多いと思いますが,イスラム教では豚肉は禁忌.

生物学的には同じ霊長類のHomo sapiensという種であっても,ヒトが何を食べるか食べないかには宗教もからんできますし,食にまつわる伝統・風習・文化の違い及び個々人の好き嫌いという超えられない壁が多々あります.

ニホンザルを含むサルの肉については,好き嫌いを言う前に日本でふつうに暮らしている限りでは生涯一度たりとも食べる機会がない方のほうが圧倒的に多いのかなと思います.スーパーの精肉売り場に並んでませんからね.

しかしながら,世界を見渡すと決してそうではありません.


◆日本の霊長類研究の黎明期の書物を読むと,調査に適したフィールドを探し当てるのにたいへん苦労したというエピソードはまるでお約束のように登場します.

それもそのはず.人を恐れるサルばっかりの地域でサルを近くから観察するのは無理というもの.そして,そういう地域のサルはたいてい人に狩られています.

狩られたサルや捕獲されたサルは,ゴリラもチンパンジーもオランウータンも他のサルもたいてい食べられます(文献を引用してこのあたりの話を始めると止まらなくなるので割愛).あるいはペットとして売り払われます.

そして,サルも含めた野生動物の肉はブッシュミートと呼ばれています.

ブッシュミートというのは,野生動物の肉のことである.アフリカでは狩猟民族によって野生獣が狩られ,その肉が利用されているが,近年,世界的に野生獣肉の人気が高まったため,その流通が拡大し,野生動物の狩猟が増えて,一部の国では動物が著しく減少してしまったという.[7]

 

[8]によると,「1994年の研究ではガボンでのその経済規模は5000万米ドルであり,家畜を含めた全食肉流通量の半分以上がブッシュミートであった.またブッシュミートのうち約20%が霊長類(サル目) であった」とのこと.

霊長類であるヒトはまぎれもなく霊長類を食べる生き物なのです.(野生生物保全論研究会によるこのページも要参照[8])

おわりに

最後に,霊長類がブッシュミートとなっていることの問題点について2つだけ指摘しておきます.

◆1点目は,言うまでもありませんが,無秩序な狩猟は動物の数を著しく減らすということ.そして,一度減った個体数は,特に大型類人猿のような出産間隔が長い動物ではなかなか回復しません.ヒトの進化を考える上で,ヒト以外の霊長類はとても多くの知見を提供しているというのに.

学問的にヒトに役立つという観点以外でも,例えばチンパンジーのような1集団で数10平方km,集団同士の関係まで考慮すればさらに広大な生息域を必要とします.そういった種を保護することは,そのエリアで生活している実に多くの生き物たちの保全につながります.他にもありますが,長くなりすぎるので割愛します.

◆2点目は,ブッシュミートとなっているサルへの接触はシビアな感染症を引き起こす可能性がある,ということ.エボラ出血熱というウイルス病を耳にしたことがある方は多いと思いますが,エボラウイルスの感染源はチンパンジーと考えられています[9].無用な接触はしないにこしたことがないのです.

エボラ出血熱関連の書籍といえばやはりこれ.筆者は1994年版(上下巻)を読みました.再版にはKindle版もあります.


ヒト以外の霊長類に目を向ければ,例えばチンパンジーはチンパンジーも食べるしアカコロブスといったサルも食べます(次の本等を参照ください).


ここまで4,000字近くを費やしました.そろそろ筆を置きます.

「サルを食べることは霊長類としてありなのか?」と問われたら,それぞれの人がそれぞれの答えをすることでしょう.

でもこれまでの事例を鑑みる限り,答えは今も昔も「あり」なのです(例えば[10]も参照)

ではまた!

参考資料

[1]https://www.jstage.jst.go.jp/article/wildlifeforum/3/1/3_KJ00003136627/_pdf
[2]ニホンザル - Wikipedia
[3]http://www.akita-gt.org/eat/shoku-02.html
[4]http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14F18001000028.html
[5]https://www.env.go.jp/nature/choju/conf/conf_wp/conf05-03/mat01-1.pdf
[6]https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort5/effort5-3a/saru20121030.pdf
[7]https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj/83/2/83_2_212/_pdf
[8]ブッシュミート - Wikipedia
[9]ブッシュミート売買によるコンゴのチンパンジーの危機: ワイルドライフ ニュース[10]カニバリズム - Wikipedia