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ワクチン効果が100%じゃない3つの理由:インフルエンザワクチン2016年改訂版

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【追記:2016年7月12日】2016/2017インフルエンザワクチン株の選定が終了したようです.2016/17シーズン インフルエンザワクチン株


2016年は,年が明けてからインフルエンザウイルスの流行入りが発表されました.インフルエンザに罹患する方はこれから増えます.それなのに,大学入試センター試験は今日から始まります.中学入試だって,年明け早々に始まったところもあります.受験生の皆さんと親御さんはくれぐれも体調管理にご留意ください.

 

インフルエンザ対策の一つしてあげられるのがワクチン接種です.接種したからには必ず効いてほしい.でも,残念ながら効果は100%じゃありません.

この記事では,インフルエンザワクチンの効果が100%じゃない理由を3つ紹介します.そして,残念ながらワクチンを接種後,インフルエンザに罹ったとしてもワクチンには効果があること,さらにワクチン接種のリスクはゼロじゃないことについても述べました.

当たるも八卦当たらぬも八卦?:8,158から4つを選ぶ

わが国におけるインフルエンザワクチン製造株の決定過程は、厚生労働省(厚労省)健康局の依頼に応じて国立感染症研究所(感染研)で開催される『インフルエンザワクチン株選定のための検討会議』で検討され、これに基づいて厚労省が決定・通達している。

感染研では、全国77カ所の地方衛生研究所と感染研、厚労省結核感染症課を結ぶ感染症発生動向調査事業により得られた国内の流行状況、および約8,158 株に及ぶ国内分離ウイルスについての抗原性や遺伝子解析の成績、感染症流行予測事業による住民の抗体保有状況調査の成績、さらに周辺諸国から送付されたウイルス株に対する解析結果およびWHO世界インフルエンザ監視対応システムを介した世界各地の情報などに基づいて、次年度シーズンの流行予測を行い、これに対するいくつかのワクチン候補株を選択した。

 インフルエンザウイルスはA型,B型,C型があり,A型には ウイルスの持つ2つのタンパク質,ヘマグルチニン(以下H)16種とノイラミニダーゼ(以下N)9種の組み合わせから144種の亜型があります.さらに, 一つの亜型(例えばA型H1N1)でもアミノ酸配列が違うものが存在するのでそれらは異なる株に分けられています.B型,C型にも複数の株があります.

それらワクチン株の総数は8,158もあります.その中から流行が予測される株を4つ選んでワクチンに入れています(4価ワクチン).昨年度まではA型2つとB型1つ(3価ワクチン)でした.流行しそうなB型ウイルス2株のうち1つしか入れられませんでしたから,B型ウイルスへの効果は去年より上がっているかもしれません.

kenko100.jp

これまでのウイルス流行予測はだいたい当たっているとのことですが,予測はあくまで予測.100%当たるとは限らないのです.実際に当たらなかった,想定外の出来事は2009年に起きました.

「安心して下さい,ワクチン接種してますから」とは言えない:突然変異

2009〜2010年に世界中で流行したインフルエンザウイルスA型H1N1(AH1pdm09)は新型インフルエンザウイルスと呼ばれました.これまでの株に対応するためのワクチンは,新型ウイルス株には効きません.

新型インフルエンザは、ほとんどの方が免疫を持っていないため、通常のインフルエンザに比べると、感染が拡大しやすく、多くの人が感染することが考えられます。
新型インフルエンザの感染経路は通常のインフルエンザと同様で、咳やくしゃみとともに放出されたウイルスを吸い込むことによっておこる飛沫感染と、ウイルスが付着したものをふれた後に目、鼻、口などに触れることで、粘膜・結膜などを通じて感染する接触感染が考えられています。 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/02.html

ワクチンは,既存のウイルス株に対する免疫をつけるために接種します.新型ウイルスは守備範囲外です.

www.seirogan.co.jp

インフルエンザウイルスは自分の力では増殖することができず、他の生物に感染し、感染した細胞の中で自分の遺伝子のコピーを作り増殖していきます。その結果、インフルエンザウイルスに感染したほとんどの細胞は死滅してしまいます。
また、インフルエンザウイルスの遺伝子はRNA(人の遺伝子はDNA)という遺伝子で、このRNAは誤ったコピーが発生しやすく、これを変異といいます。
インフルエンザウイルスは常にこの変異が起こっており、人の1000倍の確率で起こっているといわれています。さらに、増殖スピードは速く、1個のウイル スは1日で100万個以上に増殖します。インフルエンザウイルスは常に変異と増殖を繰り返して、徐々にマイナーチェンジしながら生き延びています。

https://www.seirogan.co.jp/fun/infection-control/influenza/mutation.html

生物もウイルスも,塩基配列に基づいてアミノ酸が運ばれ,それらのアミノ酸が結合してタンパク質を合成することは共通しています.変異(突然変異)は,なんらかの要因で塩基配列が置き換わることを指します.

変異はウイルスのRNAを複製するときにも起きます.ヒトのDNAは二重の鎖になっていることによる安定性と,変異に対する修復機構があるのですが,一本鎖RNAのインフルエンザウイルスには複製ミスを修復する機構はありません.複製時におけるウイルスの遺伝情報の変異は二重鎖DNAより起きやすいのです.

 

変異ウイルスに対してもワクチンが効果を発揮するなら2009年の新型インフルエンザウイルスの世界的流行はもっと防げたのかもしれません.しかしながら現実はそうではありませんでした.変異ウイルスへのワクチン効果は100%じゃないどころではないのです.

 

ワクチン製造過程でエラーが起きた

ワクチンの製造過程で変異が生じてしまい,本来想定した効果が得られないことも起きています.

近年、A(H3N2)およびB型ワクチン株あるいはワクチン製造株は、卵での増殖過程で抗原部位や糖鎖付加部位にアミノ酸置換による変異が生じ、ワクチン 元株(細胞分離株)から抗原性が変化する傾向がみられている(「平成24年度(2012/13シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」、IASR 33: 297-300, 2012を参照)。その結果、ワクチンの効果が減弱されている可能性が懸念されている。http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2301-related-articles/related-articles-417/5131-dj4177.html

出来上がったワクチンがコレジャナイ状態では,せっかく接種しても抗体価(後述)が上がらないので思うような効き目は得られません.

この点については改善されているようですが,接種後にこんなことが判明するようではたまりません.

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ここまで,インフルエンザワクチンについて,効果が100%じゃない3つの理由を述べました.

それでも効果はゼロじゃない

ここまでネガティブなことしか書きませんでしたが,インフルエンザワクチン接種によって発症を防げる可能性は上がりますし,発症しても症状を軽減できることが期待できます.効果はあると言えます(ただし,100%ではありません).

<働くIgG抗体>

インフルエンザウイルスが感染しやすい細胞は鼻と喉にありますが,注射で体内に入れる不活化ワクチンは鼻と喉の免疫ではなく,血中の免疫力(IgG抗体の抗体価)を上げることによって,ウイルスに感染した後の効き目が期待できるようです.

www.daiichisankyo-kv.co.jp

インフルエンザワクチンは現在不活化HAワクチンの皮下接種が行われています。インフルエンザ感染発症の予防には気道分泌型IgA抗体と下気道からの IgG抗体が重要です。全身のウイルス感染の抑制には、血中のIgG抗体が重要な役割を果たしているものと考えられています。http://www.daiichisankyo-kv.co.jp/knowledge/faq/influenza.html#anc007

あらかじめワクチンを接種していると,ウイルス本体が体内に入ったとき,それを異物として認識し,対処してくれるのが抗体です.抗体がどれだけあるか(抗体価)によって免疫の働きかたは違ってきます.十分な抗体価がない場合,ワクチン接種によって抗体価を上げて,免疫力を高めます.

本来,インフルエンザワクチンに期待したいのは,インフルエンザウイルスを体内に入れないこと.インフルエンザウイルスは,鼻と喉,いわゆる気道の細胞の受容体 (レセプター)に結合するタンパク質をもっています.それがヘマグルチニンです.受容体は細胞のいわば錠前(ロック),ヘマグルチニンは鍵(キー)です. キーの働きを押さえ込むのが抗体です.鼻と喉で働くのがIgA抗体です.

しかしながら,注射での接種によるインフルエンザワクチンは気道で働くIgA抗体ではなくて,血中で働くIgG抗体を増やす(抗体価を上げる)働きをします.ウイルスが気道の細胞に結合するのを防ぐことはあまり期待できないけれど,細胞の中で増殖し,血中に出てきたウイルスにIgG抗体がとりついてさらなる増殖を防ぎます.ワクチンを接種しておけば,インフルエンザにかかってもそんなにひどくならない場合があるのはこのためです.

 

また,ワクチンに入れたウイルス株と流行株が一致した場合,高い効果を得られるようです.

もっとも,ワクチン株ウイルスと流行株が一致した場合は,成人での発病予防効果は,70~90%,老人ホームでは時に30〜40%と低い場合もあるが,肺炎と入院を防止する効果は50〜60%,死亡を防止する効果は80%とのことです.http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0760010009.pdf

とはいえ,ワクチンを摂取しても抗体価が十分に上がるかどうかは人それぞれのようです.ワクチンを摂取したからといって,インフルエンザの症状を呈する可能性が100%なくなるわけではないようです.

ワクチン接種のリスク:死亡あり

効果が期待できる一方,ワクチン接種にはリスクもあります.ワクチンの副作用・副反応で重篤な症状を呈し,場合によってはお亡くなりになった方が現実にいらっしゃるからです.平成24年10月〜平成25年3月におけるインフルエンザワクチン推定接種者数50,240,735回のうち,死亡報告数は9件(0.000017%) です.http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/306-1.pdf

 

このリスクを低いと見るかどうかは拙記事を読んでくださった方次第です.

また,自分が罹患する/したときのリスクを下げることよりも,「自分が罹患しないことが他者にウイルスをうつさないことにつながるから」ワクチンを接種するのだ,という考え方の人もいらっしゃいます.

ph-minimal.hatenablog.com

公衆衛生上,集団中のワクチン摂取率が高い方がインフルエンザ感染をより防ぐことにつながります.

そうは言っても,「あのときワクチンさえ接種しなかったら」という思っている方もいらっしゃると思います.

その一方,「あのときワクチンを接種していれば」,という方もいらっしゃると思います.

 

どちらの思いも当事者一人ひとりにとっては等価ではないでしょうか?

 

このエントリーは,ワクチン接種について否定も推奨もしているつもりはありません.あくまで,ワクチン接種によって得られる利益と支払うコストを天秤にかけるきっかけになることを望みます.ワクチンを接種するのは他ならぬあなたとあなたのご家族なのですから.

 

なお筆者は,仕事の都合でイエローカードが必要なときは何の躊躇もなく黄熱病ワクチンを接種しました.ですので,スピリチュアル的・打ってはいけない的・健康第一主義的方面とは無関係です.またウイルスは専門ではありませんので,間違っている所もあるかもしれませんが質問されてもお答えできませんのでご了承ください.

 

記事執筆にあたってid:gadgety さんの記事がたいへん参考になりました.

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参考書です.

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現役大学教官から大学の講義でも使えるとお墨付きをいただいた記事です.

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ではまた!