おまきざるの自由研究

好奇心の赴くままに

ZIP!枡太一アナウンサーの論文発見!「人口当たりの論文数」って何か違うと思ったので調べてみました

【スポンサーリンク】

はじめに

人口当たりの国・地域別論文数を比較すると日本は37位になるそうです.出典はこちらのブログの二つ目の図.人口=国力とすれば,日本は国力にそぐわない数の論文しか生産しておらず,国際競争力は低下しているとのことです(p.29によれば2015年の日本の人口は世界11位).

でも,人口当たりの論文数に何の意味があるんだろう?と素朴な疑問が湧きました.

先進国の中には,人口はさほどではないが,教育や科学技術の水準が高く,研究者人口は多い国があると思います.一方,人口は多いけれど,教育・科学技術の水準はさほどではないため,研究者人口はそんなに多くない国は途上国などにみられると思います.

論文生産率を国同士で比較するんなら,実際に論文を書く人たちの人口を母数にしないとあまり意味がないんじゃないでしょうか?

ところで,普通の大学生って論文書きます?

あ,卒業論文は書きましたか.

残念ながら,卒業論文はこの場合の論文には含まれないんです.

論文とは

論文とは,査読付きの学術雑誌に投稿し,あれこれ文句つけられながら指摘に沿うよう修正を施すやりとりを何度か繰り返し,やっとこさ受理されてようやく印刷・出版されて発表されたもののことを指す,とのことです(ものによっては1発で受理されたり,webで発表というのもあるようです).

これから論文を書く若者のために 究極の大改訂版

これから論文を書く若者のために 究極の大改訂版

 

大学内で編集される紀要とか,一部のひとたちが集まって作った研究会で自費出版している雑誌風の媒体は論文には該当しないそうです.

枡太一アナの論文発見!

下のリンクにあるのが普通の論文です.URLだけだと何の論文かわかりませんが,ぜひクリックしてみてください.日本人6人による英語論文のフルPDFです.

最初の著者がTaichi MASU,所属Nippon Television Network Corporationとなってます.

http://www.researchgate.net/profile/Satoshi_Watanabe7/publication/229907958_Establishment_of_shell_growth_analysis_technique_of_juvenile_Manila_clam_Ruditapes_philippinarum_semidiurnal_shell_increment_formation/links/53eadb010cf2fb1b9b6aceec.pdf

 日本テレビアナウンサー,枡太一さんの論文です.

Fisheries Science 74(1), 35-47 (2008)
Establishment of shell growth analysis technique of juvenile Manila clam Ruditapes philippinarum: semidiurnal shell increment formation

アサリ稚貝の貝殻に形成される成長線解析手法の確立:成長線の形成周期

桝 太一(日本テレビ)→第1著者,渡部諭史(水研セ中央水研),
青木 茂(東大院農),片山知史(水研セ中央水研),
福田雅明(水研セ北水研),日野明徳(東大院農)

  本研究では,アサリ成貝で報告のあるレプリカ法を稚貝で行うための手法を確立し,最小で殻長 2 mm 程度までの分析を可能にした。貝殻外層の外帯に形成され内帯まで明瞭に続く成長線は,潮間帯と浅い潮下帯において 1 日 2 本形成されることが確認された。殻長約 12 mm の稚貝の成長解析を行ったところ,0.8 mm までの殻長逆算が可能であり,4 月~7 月の平均成長速度は,120~142 μm/day と推定された。日間成長速度の変動周期には,2 週間の潮汐リズムは確認されなかった。

http://www.rehttp://www.miyagi.kopas.co.jp/JSFS/PUBS/FS/E_point/74-1e.htmlsearchgate.net/profile/Satoshi_Watanabe7/publication/229907958_Establishment_of_shell_growth_analysis_technique_of_juvenile_Manila_clam_Ruditapes_philippinarum_semidiurnal_shell_increment_formation/links/53eadb010cf2fb1b9b6aceec.pdf
Fisheries Science 掲載報文要旨より

日本水産学会日本語の学会誌(日本水産学会誌)と英語の学会誌(Fisheris Science)を出版しているようです.論文の原稿を送る(投稿規定というのがありました)と,

日本水産学会誌への投稿原稿は編集委員会において,またFisheries Scienceへの投稿原稿はEditorial Boardにおいて審査する。その結果,訂正を要すると判断された原稿はその理由を付して著者に返送し,訂正を求める。また,編集委員会または Editorial Boardが掲載不適当と認めたものは返却する。なお,掲載可と認めた報文においても軽微な修正を求めることがある。

枡アナは,東京大学大学院農学生命科学研究科の修士課程修了後,2006年に日本テレビ入社とのこと.桝太一 | アナウンスルーム | 日本テレビ

論文の中身は何が何だかわかりませんが,日付を見つけました.

Received 24 April 2007.Accepted 13 September 2007.

どうやら,2007年4月24日にEditorial Board(英文誌の編集委員会のことのようです)原稿を受け取って,2007年9月13日に査読を経て掲載決定(受理)したことを示しているとか.日テレに就職してからも論文の原稿を書いてたんでしょうね.その原稿が,論文として2008年に出版されたFisheries Scienceの74巻1号の35〜47ページに掲載されたことによって日の目を見たわけです.素晴らしいです.

この論文は,後述する2008年の日本の論文69,300本の一つの中に入っているはずです

母数は「人口」ではなく「論文生産人口」

では,どのような人たちが論文を書くのでしょう?

分野によっては中学生・高校生でも論文を書くこともあります(この論文 ).

中学生の研究が米国の一流論文誌に掲載された | Chem-Station (ケムステ)

とはいえ,普通の中学・高校・大学生は論文なんかまず書かないと思います.

したがって,大学院生,ポスドク,大学教官,研究機関(官公庁と民間両方)の研究員などが論文を書く人たちの大多数を占めると思います(書かない人もいるみたいですがそれはさておき).枡アナのように,所属機関を離れてからもなお大学院生時代の研究成果を形にする人もいらっしゃいますが,とりあえず,これらの人たちをまとめて論文生産人口としておきます.

N国では論文生産人口が100人いたとします.N国である年に出版された論文が100本だったとしたら,論文生産人口当たりの論文数は1となります.

一方,A国では論文生産人口が1万人いて,上と同じ年に出版された論文が800本だったとすると,論文生産人口当たりの論文数は800/10,000=0.08となります.

この二つの国を比べると,年間論文出版数は100本と800本と大きく違い,その差は8倍になります.その差をもたらすのは,言うまでもなく論文生産人口の違いです.論文生産人口は100人と1万人.その差は100倍.

あれ?

論文生産人口に100倍の差があるのに,出版された論文数の違いは8倍.これって,論文生産人口少ないのにけっこうがんばってるんじゃない?ということになるかもしれません.

「論文生産人口」を推定してみる

では,実際のデータで国間比較を・・・と言いたいところですが,論文数を発表しているトムソン・ロイターInCites™のデータは有料です.悲しいことに一般人が無料で利用することはできません.

しかたないので検索したところ,1988年,1998年,2008年の国・地域別論文発表数(上位25か国・地域)を載せているWEBがありました(こちらの表3 ).

それによると,2008年の米国の論文発表数は275,625本.対して日本は69,300本です.日本と米国の論文発表数の比,すなわち日本/米国=0.251です.米国の論文数を1000本とすると,日本は251本しか論文を発表していないことになります.

では,2008年の論文生産人口はどうなっているでしょう?「米国人と日本人で論文生産能力に差がない」という仮定が成り立つのであれば,米国と日本の論文発表数の違いは論文生産人口の違いがもたらしているのかもしれません.

論文生産人口の構成員は
1.大学院生(修士課程在籍者数+博士課程在籍者数)
2.ポスドク(博士号取得後,任期制の職にいる研究者)
3.大学教官(常勤職)
4.研究機関の研究員(常勤職...だと思います)
としてみました.が,研究機関の研究員(官公庁・民間両方)についてはわかりませんでしたので省きます(ごめんなさい).これらのうち,大学院在籍者数からみていきます.

1.大学院在籍者数
日本では,学校基本調査の年次統計 の「大学院を設置する学校数,在籍者数」によると 262,686人(ただし,修士+博士+大学院担当専門職とあって,この専門職は何でしょう?RA=リサーチ・アシスタントとか?).

米国では,National Science Foundationのこちら の"Table 1. Graduate students in science, engineering, and health in all institutions, by field: 1975–2012から631,489人.

日本/米国=0.415.ただし,表題にもあるように米国には文系が含まれていないようです.日本の大学院生数 には文系も含まれていますので,理系大学院生数の日米比はもっと低くなるでしょう.

2.ポスドク数

日本では,科学技術・学術審議会人材委員会 によるこちらの図1(p.13) によると17,945人.

米国ではNational Science Foundationのこちら の"Table 27. Postdoctoral appointees in science, engineering, and health in all institutions, by field: 1979–2012 "から54,164人.これも理系分野のみの人数です.

ポスドク数の日米比は日本/米国=0.331.


3.大学教員数

日本では,学校基本調査の年次統計 の「教員数」によると169,914人.無論,理系文系両方含まれています.

米国ではアメリカ統計ダイジェスト2012年度版日本語訳(こちらの表284 )の教職員のエクセルデータ(ただし,2008年はなかったので,2007年を用います)から教員(教育/研究/公共サービス業務のいずれかに従事)のみをあげると1,371,390人.経営管理に従事する教員217,518人,大学院生助手328,979人及びその他専門711,514人は用いませんでした.

教員の日米比は日本/米国=0.123

大学院生数・ポスドク数・大学教員数(論文生産人口の近似値)の合計は

日本    450,545人
米国 2,057,043人

日米比は,日本/米国=0.219.

「論文生産人口」当たりの論文数

2008年の米国の論文数は275,625本でした.米国人と日本人で論文生産能力に差がないと仮定すれば,論文生産人口の日米比から期待される日本の論文数は,

米国の論文数×0.219

275,625×0.219=60,368(日本の論文数の期待値)

日本の論文数は69,300本なので,期待値を約9,000本上回っています.ただし,トムソンロイターが発表する論文数(3年間の平均のようです)は基本的に理系分野(化学,材料化学,物理学・宇宙科学,計算機科学・数学,工学,環境/生態学・地球科学,臨床医学・精神医学/心理学,基礎生物学,その他)とのことですので,これらに従事する日本の大学院生・ポスドク・大学教員数は450,545人よりはるかに少ないでしょう.

したがって,論文生産人口の日米比はもっと低くなるかもしれません. また,今回は考慮しませんでしたが研究機関研究員の人数はおそらく米国のほうが多いでしょう.

さらに,経営管理に従事する教員・大学院生助手及びその他専門の合計1,258,011人は何らかの形で研究に貢献していると思われます.経営管理専門の教員がいれば,そうでない教員は研究・教育により集中できるでしょう.院生助手とその他専門スタッフは,データとったり実験したりといった研究の実働部隊かもしれません.

実際の論文生産人口の日米比はさらにさらに小さくなるかもしれません.

米国の圧倒的な論文生産マンパワーの21.9%しかない日本の論文生産人口からすれば,

日本人研究者はわりとがんばっているかもしれないと思いました.

もしかしたら,日本の研究者は,国別人口当たり論文数が37位などと言われる筋合いは無い程度には論文を生産しているかもしれません

おわりに

論文数を,論文を書くべき人たち=論文生産人口と,論文を書くことがまずないだろう人たちも含めた「人口」でいじって話をされても全然ピンとこなかったので,調べてみました.

研究機関所属の研究員や企業所属の研究員数と,日本の理系論文生産人口を抽出できなかったですし,つぎはぎデータを拾ってきた大雑把すぎる論文生産人口推定でしたが,「今はこれが精一杯」です.ルパンもカリオストロの城でそう言ってましたし.

ちなみに,こちらのブログ でトムソン・ロイターInCites™の発表論文数を分析していらっしゃいました.それによると,中国・米国・ドイツ・イギリス・フランス・カナダ・イタ リア・スペイン・オーストラリアは『1999-2003年期の値に比べ2005-2009年期の値は増加している中、日本だけが2005-2009年期の 値が1を下回っています。 この5年間の論文生産数は、1999-2003年の論文生産数の水準を下回っている』とのことです.

これが何に起因しているのかはわからないとのことです.少なくとも,大学教員数は増えています.大学院在籍者数が減るのは2012年から(博士課程に進ん で博士になっても就職できないので,賢い人は修士まで行って就職するらしい)ですので,大学関連の論文生産人口の減少がもたらしたものではないようです.

ところで,国立大学法人化は 2004年から始まりました.もしかしたら,法人化後に大学教員は研究どころじゃなくなり何かと忙しくなって「外国人と日本人で論文生産能力に差がない」という前提が成り立たなくなってたりするんでしょうか?


<良い分析もたくさんしていらっしゃいます.というか,もの凄いです>

blog.goo.ne.jp

このブログでも人口当たり論文数を用いています.まったく意味がないとは言いませんが,身銭切らないでいろんなデータにアクセスできるんですから,両国の工学系論文生産人口をそろえるとかの有益な分析をしてほしいです.

などと書きましたが,『豊田レポート』(JBpress 2015.8.24より)と呼ばれている148ページもある報告『運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究〜国際学術論文データベースによる論文数分析を中心として〜』では膨大な分析がなされています(JBpressは有料だから読めないけど,PDFは全部読めます).

例として

●『高等教育機関研究従事者増加率は論文数増加率と強く相関する(1対1の対応).日本は先進国で最も低い.』(p.29)


●『高等教育機関への公的研究資金増加率は大学の研究従事者増加率と強く相関する(1対1の対応.日本は先進国で最も低い)』(p.30)


●『高等教育機関への公的研究資金増加率は大学の論文増加率と強く相関する(1対1の対応.日本は先進国で最も低い)』(p.31)

などは人口当たりをかましておらず,国際比較に耐えるものではないかと.

また,

●『日本政府は研究資金の半分を公的(政府)研究機関に投じている.公的(政府)機関の研究費あたりの論文数は少ない.(単価の高い研究を国家戦略として選択し集中している投資している)』(p.33)

公的(政府)機関はコスパ悪いと筆者には思える
というデータなんかも図示しています.

こういう直截的なデータで,わかりやすい形でもっと伝えて欲しいです.

(注:この記事は以前利用していたブログサービスにおける2015年5月の記事ですより加筆・修正を施した上で全て移行しました.前ブログサービスに該当記事はありません.)