おまきざるの自由研究

好奇心の赴くままに

猛威を振るうノロウイルス:主にいらすとやのイラストで増殖のしくみを解説する

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このエントリーはノロウイルスの増殖のしかたについて,専門用語をなるべく用いず,ウイルスについて見立てたイラストを用いてごく簡潔に説明したものです.

筆者は首都圏某女子大学で生物系講義を10年ほど担当した経験から,文系女子大生にもわかるように,内容をかみ砕いて書きました.読んでくださった方に役立てば幸いです.

ノロウイルスとは?

毎年,秋〜冬になるとニュースでよく耳にする「ノロウイルス」.ノロウイルスに感染してえらい目に遭った方も少なくないと思います.

ノロウイルス(Norovirus)と名付けられたのは実は2002年でした.それまでは小型球形ウイルス・ノーウォーク様ウイルス(Norwalk-like viruses:NLV)・メキシコウイルス・ハワイ因子などと呼ばれてたとのこと(IDWR: 感染症の話).

症状はご存じの通り,下痢・嘔吐・吐き気・腹痛等です.発症すると冒頭イラストのごとくえらい目にあうそうですね・・・

国立感染症研究所のHPによれば,

「季節的には秋口から春先に発症者が多くなる冬型の胃腸炎、食中毒の原因ウイルスとして知られている。ヒトへの感染経路は、主に経口感染(食品、糞口)である。感染者の糞便・吐物およびこれらに直接または間接的に汚染された物品類、そして食中毒としての食品類(汚染されたカキあるいはその他の二枚貝類の生、あるいは加熱不十分な調理での喫食、感染者によって汚染された食品の喫食、その他)が感染源の代表的なものとしてあげられる。ヒトからヒトへの感染として、ノロウイルスが飛沫感染、あるいは比較的狭い空間などでの空気感染によって感染拡大したとの報告もある。この場合の空気感染とは、結核、麻疹、肺ペストのような広範な空気感染(飛沫核感染) ではないところから、埃とともに周辺に散らばるような塵埃感染という語の方が正確ではないかと考えている。(注:赤太字は管理人による)」(ノロウイルス感染症とは

ノロウイルスが恐ろしいのは,発症者の糞便・吐瀉物を処理した人のみならず,たまたまその現場に居合わせた人までもが埃とともにウイルスを吸い込み,感染する可能性があるかもしれないことです.

いわゆるキャリア(ウイルスを体内に保有しているが発症してない人)を通じて感染したのではなく,ノロウイルスが付着・残存する所から舞い上がったウイルスを含んだ埃を吸い込むことによって多数の人が感染したと考えられている事例は,436人が発症した2006年12月東京都豊島区のホテルでの集団発生があげられます(http://med.saraya.com/gakujutsu/update/pdf/026.pdf).

 

ウイルスは細胞の中で増える

ノロウイルスは細胞の中で増えます.人の細胞の中でも,小腸上皮細胞という場所のみで増殖します.

細胞はタンパク質を組み立てる工房でもあります(巨大工場と言ったほうが適切ですが,イメージしやすくするため工房と表現しました.)

 

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ノロウイルスの増え方は,インフルエンザウイルスや,エイズをもたらすヒト免疫不全ウイルスとはちょっと違います.

では,ノロウイルスの増え方の仕組みについて,フリー素材「いらすとや」のイラスト等を使って,ざっくり説明します.

ノロウイルスの構造

ウイルスは肉眼では見えないほど小さいです.

例えばエイズ(後天性免疫不全症候群)をもたらすヒト免疫不全ウイルス(HIV)の大きさは直径約100nm(nm:ナノメートルは1メートルの10億分の1).

 

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いらすとやさんのイラストでは,中央の緑色の線(二重螺旋)が遺伝情報,赤い点が逆転写酵素を示しているものと思われます.

 

ノロウイルスは直径38nm(nm:ナノメートルは1メートルの10億分の1)の正二十面体をしています.ノロウイルスおよび正二十面体のイラストはいらすとやさんになかったので,イラストACに登録し,正二十面体のフリー素材をダウンロードしました.これをノロウイルスとして代用します.

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ノロウイルスの構造はとても単純です.基本的に遺伝物質とタンパク質で出来ています.

1.遺伝物質

わたしたち人の持つ遺伝物質はDNAです.DNAは細胞の中心にある「核」とよばれるところに保管されています.いわば金庫ですね.

DNAは金庫に保管されるくらい重要なので,金庫の外に持ち出すことはありません.必要なときは写しをとります.写しのことをmRNA(メッセンジャーアールエヌエー)といいます.

ウイルスの中には,遺伝情報としてDNAをもつタイプとRNAをもつタイプがあります.

ノロウイルスがもっている遺伝情報はRNAです.しかも,一本鎖+RNA(プラスRNA)とよばれるもの(プラス鎖の一本鎖RNAという呼び方もあります)

このタイプのものは,データを写し替えたり(ーRNA=マイナスRNAは+RNAに移し替える必要があります),HDDにいったん落としこむ(核内のDNAに組み込む)必要がありません.そのまま読み取り可能なデータです.言い換えれば
ポートに差し込んで即座に使えるUSBメモリみたいなものです.
1本鎖+RNAはそのままmRNAとして働く.

一本鎖+RNAのイメージです.いらすとやより.

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2.タンパク質

ウイルスの遺伝情報はむき出しのまま存在してはいません.容れ物が必要です.容れ物の役割を担っているのがタンパク質です.この論文には「構造蛋白」と書かれていました.

タンパク質のイラストも見つかりませんでした.タンパク質は立体構造をとりますので,正二十面体を構成する正四面体のイメージ画像としてこれを用います.

いらすとやイラストを一部改変.

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ウイルスはどうやって増えるの?

ウイルスは,ウイルス同士が集まっても増えることはありません.すでに述べたように,細胞の中に入り込まないと増えることができないのです.

そして,ウイルスが増える手順はそんなに多くありません.ノロウイルスの場合,大まか6工程くらいです(とはいえ,それぞれの過程でそれぞれにタンパク質が働きますが,ここでは割愛します)

1.細胞にくっつく
2.細胞の中に入り込む
3.中身をぶちまける
4.細胞の中のものを勝手に使って自分のパーツを作る
5.パーツを組み立てる
6.細胞の外に出て行く.


ここでは,4の「細胞の中のものを勝手に使って自分のパーツを作る」だけ説明します.

 

細胞の中には,タンパク質を作る大型工具のような細胞小器官があります.それは「リボソーム」です.リボソームは,mRNAの情報を読み取ってアミノ酸を順番通りにつないでタンパク質を作るという,とても重要な役割を担っています.

今風に言えば,3Dプリンタみたいなものです.

 

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3Dプリンタを動かすためにはデータが必要ですよね?

ここまで読んで頂いた方はピンときたかもしれません.そう,ウイルスは自前のデータを持っています.ノロウイルスの場合,それが一本鎖+RNA.

ノロウイルスのデータは,解凍したり,いったんHDDに格納しないと動かないタイプのデータではありませんので,細胞内の3Dプリンタ(リボソーム)にデータ(一本鎖+RNAの塩基配列)を読み取らせて,部品であるタンパク質を作らせるだけなのです.

 (一本鎖+RNAはそのままmRNAとして働き,リボソームで読み取られます.それから,tRNAがmRNAで指定されたアミノ酸を順番通りに運んできて結合させ,タンパク質をつくります.tRNAが働くこの過程を「翻訳」と呼びます.)



細胞の中の3Dプリンタ(リボソーム)は,持ち主の人間(宿主)の意思とは一切関係なく,いくつかのタンパク質を作らされてしまいます

その中には,ウイルスを覆うタンパク質だけじゃなく,ウイルスUSBメモリのコピーを作らせるタンパク質も含まれています(RNA依存性RNAポリメラーぜ)

このタンパク質の働きで,一端,USBメモリの反転コピーを作ります(転写).反転コピーのイメージはこのいらすとで.

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これをもと(鋳型)に,ウイルス遺伝情報のコピーもたくさん作られてしまいます.


<ノロウイルスのタンパク質と遺伝情報の増え方>

ノロウイルスの遺伝情報は,そのままタンパク質製造マシーン(いわば3Dプリンター)であるリボソームで読み取られます.読み取ったままにウイルスのタンパク質が作られてしまいます.

そして,ノロウイルスの遺伝情報の反転コピーが写し取られ(転写),それをもとにウイルス遺伝情報が次々に複製されてしまいます.

ノロウイルスの増え方は,ざっくり次のイラストのような感じです.

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つまり,ノロウイルスは,細胞という工房の中に勝手に入り込み,工房の中にある工具や素材を勝手に使って自分のパーツをあれこれ作らせ,完成品(ウイルスのコピー)を組み立てた上で工房(細胞)の外へと勝手に出て行くのです.

 

元はと言えばたった1つのウイルスだったのに,細胞の中でたくさんのコピーを作り,ウイルスが増殖するのです.

 

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ノロウイルスについての情報を拾えなかったのでインフルエンザウイルスについてではありますが,細胞に感染した1個のウイルスが24時間後には100万に増えると言われています(http://influlab.jp/reception_desk/data.html).

 

まとめ

①ノロウイルスは,タンパク質と遺伝情報(RNA)を持っている.

②ノロウイルスの遺伝情報はそのまま読めるタイプ(そのままmRNAとして働き,リボソームで読み取られる1本鎖+RNA)である.

③ノロウイルスの遺伝情報は,細胞内の3Dプリンタ(リボソーム)でそのまま読みとられ,ウイルス複製に必要な数種類のタンパク質が作られる.タンパク質の中には,ウイルス遺伝情報のコピーを作るものもあり,その働きによって遺伝情報のコピーもたくさんつくられる.

④必要なパーツを組み上げたらウイルスは細胞の外へと出て行く.

以上です.なるべく簡潔に書いたつもりですが,いかがでしたでしょうか?


なお,ノロウイルスに限ったことではありませんがウイルスの遺伝子(RNA)には,ヒトのDNAのような複製時のミスを修復する機構がないため,遺伝子がより変異しやすいという特徴があります.

この点についてはDNA修復に関する拙エントリーを参考にするとよいかもしれません.

browncapuchin.hatenablog.com

 

そして,とても残念なことに,ノロウイルスの特効薬はまだ開発されてません.

なぜなら,「通常、ウイルスについての詳細な研究を行うには適切な動物培養細胞を探して感染させ、ウイルスを増殖させることが必要であるが、ヒトに感染するノロウイルスについては実験室的に増殖させる方法がまだ見つかっていないノロウイルス - Wikipedia)」からです.

そんな状況下でも研究は進展しています.

国立感染症研究所の芳賀慧、藤本陽、片山和彦らの研究グループは、ネズミに感染するノロウイルスの一種:マウスノロウイルスの感染受容体(レセプター)を発見し、ノロウイルスの感染の仕組みを解明しました。
(中略)
この発見により、ノロウイルスの細胞への侵入、感染機構が初めて明らかになりました。研究グループでは、今後この成果をヒトノロウイルスワクチン開発のためのモデル実験に用いることも計画しています。ヒトに感染するノロウイルスのモデルとなるマウスノロウイルスでレセプターが発見されたことから、マウスをモデルとした抗ウイルス薬開発、消毒薬開発が飛躍的に進むことが期待されます。

マウスノロウイルスのタンパク質感染受容体を発見―ノロウイルスの感染機構解明に大きく前進、ワクチン開発・治療薬開発を加速― | お知らせ | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構

 

今後に期待しましょう.

ではまた!

【参考文献・資料】年代・著者名順は無視しました.ごめんなさい.

佐藤 2010.ヒトノロウイルスの生存戦略.ウイルス第60巻第1号,pp.21-32
国立感染症研究所(掲載日時不明)HP.ノロウイルス感染症とは
武田 2001.感染症の話.感染症発生動向調査週報 2001年第8週(2月19日〜2月25日)掲載
サラヤ株式会社学術部 2012.2011/2012シーズン ノロウイルス情報 No.4 ノロウイルスの汚染された塵や埃も感染源に
京都府(掲載日時不明)HP.これだけは知っておきたいノロウイルス感染症の知識(健康福祉部健康福祉総務課 保健環境研究所)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 2016.マウスノロウイルスのタンパク質感染受容体を発見―ノロウイルスの感染機構解明に大きく前進、ワクチン開発・治療薬開発を加速― 
牛島,沖津,PATTARA 2011.カリシウイルス.ウイルス第61巻第2号,pp.193-204
IASR(掲載日時不明).ノロウイルスの遺伝子型
Rohayem et.al., 2010.Antiviral strategies to control calicivirus infections.Antiviral research 87(2):162-178

browncapuchin.hatenablog.com


<このエントリーに関連するお薦めの漫画と映画鳥インフルエンザウイルスについて書いた記事のまんまです・・・)

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