おまきざるの自由研究

好奇心の赴くままに

理学の研究は人の役に立っている:京大総長のゴリラ研究と局アナのアサリ研究から

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はじめに

(id:tsunapon)さんのブログを欠かさず読んでいます.先日はこのエントリーでした.

tsunapon.hatenablog.com

 

理学とは何者か。そして何のために存在しているのか

この問いに答えるのは、

「医学部って何か」「薬学部って何か」「工学部って何か」という問に応えるよりも遥かに難しい。

なぜなら理学という学問は社会への成果の還元を主たる目的にしていない。

 

「理学という学問は社会への成果の還元を主たる目的にしていない。」

 

そんなに気負う必要はないんじゃないかな,と思います.

 

理学の研究がみな役に立つものとは限りません.でも,あなたが行った研究は,いつか誰かの役に立つかもしれません.
 

一般人から見ればぜんぜん役に立ちそうには思えないけど役に立った研究はたくさんあります.

このエントリーでは,実際に役に立った研究と,たぶん役にたつかもしれない研究どちらも,つなぽんさんと同じく理学の生物分野)を一つずつ紹介して,これから研究を始める若者と,これからも研究を続ける老若男女へのエールを贈ります.

 

A.ルワンダのゴリラエコツーリズムは,今や外貨の稼ぎ頭に成長した

霊長類の野外観察を主目的としたエコツアーはアフリカ各国で行われていて,今や貴重な外貨獲得の源にまで成長しています.


ルワンダでは,2010年の観光産業による外貨収入は2億700万米ドル.これは主要輸出品コーヒーと紅茶の輸出額(6,900万米ドル)の3倍です.

特筆すべきは,観光の目玉が野生ゴリラを観察するエコツーリズムであること(出典:ルワンダのエコツーリズム « Promar Consulting.なお,2013年時点で同国のゴリラエコツアーは1人750ドルになっているとのことです)

そのゴリラエコツーリズムのルーツは日本の野猿公苑なのだそうです.

日本の野猿公苑には,餌付けされたニホンザルがいます.もともとは野生で生活していたニホンザルを,研究者が餌付けして至近距離から観察できるようにしたのを観光地化したのが野猿公苑(大分県の高崎山が有名な野猿公苑ですが,あそこはもともと野生でも最大級の頭数を誇るニホンザルの群れが生息しており,そのサルたちを餌付けしたのが発祥です).

つまり,日本人研究者によるニホンザル研究がアフリカの霊長類エコツーリズムの原点なのです.

ちなみに,日本で最初にニホンザルを研究したのは京都大学理学部の今西錦司,伊谷純一郎,川村俊蔵.もともとは九州の野生馬と奈良公園の鹿を研究していたが,野生馬を観察中にニホンザルの群れに遭遇したのをきっかけに,ニホンザル研究すなわち「日本の霊長類研究」の始まりとなりました.1948年のことです.

そのとき,今西さんはウマをやっていて,川村さんはシカをやっていたわけです.それで,これだけではウマシカだから,馬鹿になる.サルを入れてウマシカサルにしよう.とりあえずお前は手があいてるんだから,サルをやれなんて冗談を言い合ったりしました.『サル学の現在』,p.648より

 

日本人の野生ゴリラ研究の第一人者は京都大学理学部出身の山極寿一現京大総長です(画像出典:山極壽一総長からのメッセージ — 京都大学

 

f:id:browncapuchin:20160406160714p:plain

 


山極総長は,ザイール(現・コンゴ民主共和国)での調査を皮切りに,ルワンダ・再びザイール,そしてガボンなどアフリカ各地でゴリラを中心にフィールドワークを行ってきました.

学術論文も著書もたくさん著しています.研究業績の一端を見ると,英語論文(単著・共著・レビュー)が81本.うち54本が第一著者(分野によっては何番目の著者が責任著者と書きますが,そこまで共著が多数に渡っていないので,第一著者が責任著者でしょう),しかもニホンザルの研究(ゴリラの前は屋久島の野生ニホンザル研究に従事)を除くと91%がゴリラもしくはチンパンジーを対象とした第一著者論文です(ここを参照:List of publications by Juichi Yamagiwa

 

でも,一般人からすれば,「そんなの税金使ってアフリカのジャングルでゴリラ見てるだけでしょ?」と言いたくなります.道楽に見えてもちっともおかしくありません.

そんな,端から見たら何の役に立っているのかさっぱりわからない野生ゴリラの研究ですが,特に行動や生態に関する研究の蓄積はエコツアーに欠かせません.ゴリラがどこに住んで,どんなルートで移動し,どんなものを食べるのか,そしてどんな社会を作って作って生活しているのか,という知識がなければ,ゴリラのことをツアー客に説明しながら案内するなんてことはできません.

したがって,山極総長と彼の研究仲間によるアフリカでの野生ゴリラ研究の成果をベースにしながらアフリカ各地のゴリラエコツアーが行われているのです(たぶん)

そうです.野生ゴリラの研究は人の役に立っています.もちろん,守られるゴリラにも役立っているのです(ただし,エコツアーによる様々な問題点も生じていますので,興味ある方はこのPDFをお読みください).

 

B.アサリの年齢を推定する研究は,美味しいアサリを見分けるのにきっと役立つ・・・かもしれない

みんな大好きアサリのお味噌汁にアサリのパスタなどのアサリ料理.そのアサリですが,なんでも3〜4歳くらいのが美味しいそうです(根拠はさっぱりわかりませんが,出典はこちら:おいしいあさりの見分け方

じゃあどうやってアサリの年齢を見分ければ良いのでしょうか?


その方法は,この論文に掲載されています.


MASU T. et.al (2008).Establishment of shell growth analysis technique of juvenile Manila clam Ruditapes philippinarum: semidiurnal shell increment formation.  Fisheries Science 74(1), 35-47.
(論文URLはこちら:http://www.researchgate.net/profile/Satoshi_Watanabe7/publication/229907958_Establishment_of_shell_growth_analysis_technique_of_juvenile_Manila_clam_Ruditapes_philippinarum_semidiurnal_shell_increment_formation/links/53eadb010cf2fb1b9b6aceec.pdf


この論文,最初の著者がTaichi MASU,所属Nippon Television Network Corporationとなってます.日本テレビアナウンサー,枡太一さんの論文です.

Fisheries Science 74(1), 35-47 (2008)
Establishment of shell growth analysis technique of juvenile Manila clam Ruditapes philippinarum: semidiurnal shell increment formation

アサリ稚貝の貝殻に形成される成長線解析手法の確立:成長線の形成周期

桝 太一(日本テレビ)→第1著者,渡部諭史(水研セ中央水研),
青木 茂(東大院農),片山知史(水研セ中央水研),
福田雅明(水研セ北水研),日野明徳(東大院農)

  本研究では,アサリ成貝で報告のあるレプリカ法を稚貝で行うための手法を確立し,最小で殻長 2 mm 程度までの分析を可能にした。貝殻外層の外帯に形成され内帯まで明瞭に続く成長線は,潮間帯と浅い潮下帯において 1 日 2 本形成されることが確認された。殻長約 12 mm の稚貝の成長解析を行ったところ,0.8 mm までの殻長逆算が可能であり,4 月~7 月の平均成長速度は,120~142 μm/day と推定された。日間成長速度の変動周期には,2 週間の潮汐リズムは確認されなかった。

http://www.rehttp://www.miyagi.kopas.co.jp/JSFS/PUBS/FS/E_point/74-1e.html
Fisheries Science 掲載報文要旨より

 

「日間成長速度」は成長線の間隔から推定できます.アサリがあまり成長しなければ成長線の間隔は狭くなります.大きく成長していればその間隔は広くなります.

枡アナの研究成果は,成長線の間隔の分析手法を確立したこと,そして,そこから稚貝の成長速度を明らかにしたことです.成長速度を逆算すれば,そのアサリ個体がいつ生まれたのかが推定できます.誕生日がわかれば,年齢がわかります.年齢がわかれば食べ頃がわかります.つまり,枡アナの研究は,美味しいアサリを食べるのに役立つのです.

ただし,この研究には時間と手間がとてもかかるという大きな弱点があります(こちらを参照ください 知識の宝庫!目がテン!ライブラリー

でも,この研究を端緒として,より簡便な方法が将来開発されれば,3〜4歳の食べ頃な「旬」のアサリが手軽に店頭に並べられるようになる,かもしれません.そんな日がやってくることを期待します.

 

おわりに


理学の生物分野の研究はいつかきっと人の役に立ちます(全部が全部じゃないけれど).研究費の申請書を書くときにいろいろ悩んだりするしれませんが,理学部の生物分野の研究者のみなさんは,ぜひ研究に邁進してください.


ではまた!

 

 

「サル化」する人間社会 (知のトレッキング叢書)

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理系アナ桝太一の 生物部な毎日 (岩波ジュニア新書)

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サル学の現在

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