おまきざるの自由研究

好奇心の赴くままに

麻生大臣発言は「ぐう正論」なんだろうか?

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はじめに


麻生財務大臣の発言が物議をかもしました.


www.asahi.com

そして,私のtwitterのTLにもこのツイートが流れてきました.

 

このエントリーでは,個人金融資産1700兆円(朝日新聞記事より)のうち,麻生大臣発言のやり玉に挙がった高齢者の資産がいかほどなのかが気になったので,ちょっと分析したことについて書きました.

以下の流れでお送りします.

1)「老後」資金はいくら必要なのか?
2)  60歳以上世帯の個人金融資産はいくらあるのか?
3)  60歳以上世帯の個人金融資産のうち,「老後」資金以外で消費に回せるのはいくらなのか?
4)  60歳以上世帯の個人金融資産のうち,「老後」資金以外で消費に回せるお金は何に使われるのか?
5)  麻生大臣発言は「ぐう正論」とはいえない

 

老後資金はいくら必要?


麻生大臣は,「90歳になって老後が心配とか」と発言しています.生きてる人にとっては60歳だろうと90歳だろうと老人になったあとの生活はすべて老後.働いて給与を得たり不労所得がある方は別として,今後どうなるかわからない年金を頼りに暮らしている老人にとって「老後」の生活への心配は尽きません.

その老後を支えるお金ですが,いくら必要とされているのでしょうか?

次の文は,老後資金の必要額はいくら?簡単シミュレーション | 50代アラフィフから考えるゆとりある老後の資金戦略からの引用です(スクリーンショットを貼りました)

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肝心なのは,この額は年金(国民年金+厚生年金=23万円)から月の支出額(27万円)からを差し引いたマイナス分を考慮して算出されていることです.計算方法は出典をご参照ください.年金額が少ない,あるいは国民年金のみだったら,必要額はもっと上がります.

いずれにせよ,「老後」資金は,

85歳までで2,580万円.

90歳まででおよそ3,000万円.

とのことです.

とはいえ,もしかしたらその金額でも不足するかもしれません.有料老人ホームへ入居する際に必要な金額は施設によってまちまちでしょうけれど,ある例では600万円となっていました.もしもに備えてあと1,000万円くらいは見込んでおいたほうがいいかもしれません.

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(出典:有料老人ホーム・介護施設の費用っていくら?【老人ホーム全国ネット】


つまり,年金以外の資産を4,000万円準備できれば,万が一,有料老人ホームに入居することになっても「なんとかなる」のかもしれません.



60歳以上世帯の個人金融資産はいくらあるのか?


しかしながら,60歳以上の高齢者はそんなに資産を持っているのでしょうか?


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(出典:http://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/pdf/h27_gai4.pdf

図が小さくてすみません.これは「二人以上の世帯のうち世帯主が60歳以上の世帯(高齢者世帯)」の貯蓄高を100万円未満,100〜200万円未満,・・・1,000〜1,200万円未満,1,200〜1,400万円未満,・・・2,000〜2,500万円未満,2,500〜3,000万円未満,3,000〜4,000万円未満,4,000万円以上に階級分けして世帯割合を示したものです.


その総額はいくらなのでしょうか?試算しました.

図に貯蓄高の平均値2,396万円と記載されていますので,必要な数字は高齢者世帯の世帯数です.なお,この金額の内訳は明記されていないのですが,定期性預金・通貨制預金・有価証券・生命保険など・金融機関外の合計と思われます

60歳以上の高齢者世帯数は統計局ホームページ/家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)平成12年1月以降の結果-二人以上の世帯(エクセル:69KB)の平成27年12月の数値を用い,5,291万世帯としました.

 

図の貯蓄高の平均値2,396万円に5,291万世帯を掛けると,「高齢者世帯」の総貯蓄高は約1,267兆円になります.

この数値で合っているなら,麻生大臣の言う1,700兆円の74%を高齢者世帯が占めることになります.単身者世帯を含めればもっと上がるはずですけど,データがないのでこの数値でいきます.

余談ですが,仮に3,500万円の遺産があったとして,遺産を妻あるいは夫だけが相続する場合,遺産に係る基礎控除額は=3,000万円+600万円×法定相続人の数なので,相続税はかかりません.


さて,図によれば,4,000万円以上の貯蓄高を保有している世帯は18.2%です.ですが,その世帯による総貯蓄額がいくらになるかは図からは読み取れません.

そこで,各階級の中央値すなわち100万円未満なら50万円,100〜200万円未満なら150万円,・・・2,500〜3,000万円未満なら2,750万円を用いて,総世帯数とそれぞれの階級の世帯数割合から計算した各階級の推定世帯数に乗じました.

結果は,貯蓄高4,000万円未満の高齢者世帯の貯蓄高は約602兆円でした

つまり,貯蓄高4,000万円以上の高齢者世帯の貯蓄高は,
約1,267兆円-約602兆円=約665兆円です.

全体の18.2%しかいない貯蓄高4,000万円以上世帯が,60歳以上の高齢者世帯の貯蓄高の52.4%を占めています.

すでに述べたように,有料老人ホームへの入居を考えるなら,「老後」に4,000万円はあったほうが安心できるでしょう.つまり,そうできるのは60歳以上の高齢者世帯のうち平均貯蓄高約6,900万を誇るわずか18.2%の世帯(約962万世帯)だけなのです.

麻生大臣が「1700兆円を消費に」と言っても,少なくとも高齢者世帯で消費に回す余裕があるのは665兆円とみるのが妥当・・・なのでしょうか?


◆ここでもう一つ問題があります.

それは,約962万世帯の高貯蓄世帯だって,自分のために使うお金として4,000万円は手元に残しておくことが予測されることです.

つまり,「老後」資金以外に世の中に回るかもしれないお金は,

6,908万ー4,000万円=2,908万円

ざっくり3,000万円です.

では,3,000万円を何に使うでしょう?

自分の使いたいように使い全部消費する?

もしそうなれば,3,000万×約962万世帯=約288兆円が世の中に出回り,消費拡大につながるでしょう.うらがえせば,高齢者世帯から動く余裕があるのは個人資産は麻生大臣が言う1700兆円ではなく,計算のしかたにによって上下するけれど約288兆円ほどしかないのです.

とはいえ,相続税対策を考えたら,3,000万円なんかあっという間に使われてしまいます.

3,000万円は贈与税の非課税制度ですぐ使い切れる


もし,あなたに孫が二人いたら自分の資産をどう使うでしょうか?孫達が都市部に住んでいるなら私立中学を受験しても珍しくもなんともありません.大学だって学費は上がる一方です.

そんなときに利用できるのが,贈与税の非課税制度

例えば,「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」.これは,30歳未満の受贈者の教育資金にあてるために金融機関に信託等をした場合,受贈者1人につき1,500万円まで贈与税が非課税になるというもの.孫が二人いたら3,000万です.

孫がいたらなあ,と思うけどまだ子どもが結婚してない,あるいは子作り費用を応援しようと思ったら,「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」を利用できます.こちらは20歳以上50歳未満の受贈者1人につき,結婚・子育て費用に1,000万円までは贈与税が非課税になります.子どもが3人いたら3,000万円です.

また,子どもが家を建てる資金を援助したいと思ったときには,「直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」があります.これは時期と住宅用家屋の種類によって非課税枠が異なりますが,最高3,000万円までの贈与税が非課税となります.

無論,これらの制度は親の資産を子や孫に移動させるためのものです.しかしながら,これら贈与税の非課税枠は使途が制限されるため,教育・結婚・子育て・住宅資金以外にはお金が回りません.ゼロとは言いませんけれど,個人消費を喚起するほどの効果がどれほどあるのでしょうか?

なお,50歳未満世帯については,貯蓄高より負債高が上回っている状態ですので彼らの貯金が消費に回ることはないでしょう(負債のほとんどが住宅ローンだとすれば,不動産に投資してる状態と考えられます).また,50〜59歳未満世帯とて,貯蓄高が2,000万円に満たない状態では「老後」に向けた貯蓄に余剰資金を割り振るのが得策でしょう.

 

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(出典:http://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/pdf/h27_gai4.pdf


結論:麻生大臣発言は「ぐう正論」とは言えない


麻生大臣はこう言いました.

思ったより伸びなかったのは、個人の消費です。間違いなく1700兆円を超す個人金融資産がある。すさまじいお金。そのお金が消費に回らない。買いたい物がないとか、将来が不安だからとか、いろんな理由あるだろうが、いずれも伸びない。金なんてね、あれ見るもんじゃねえんだ。触るもんでもねえ。あれは使う もんだから。使って回さないとどうにもならねえ。じーっとしているのが最大の問題だ。

 
お金は使って回さないとどうしようもない.それは正論でしょう.「日本の個人消費は国の経済規模を示すGDP(国内総生産)全体の半分程度を占め、その動向が景気や金融政策に大きな影響を及ぼします。」と言われているのですから(出典:景気回復の持続へカギ握る個人消費).

 

しかしながら,個人金融資産の1700兆円のうち,現行の社会保障制度を前提にすれば,「老後」の生活を鑑みて消費に回せるのはせいぜい300兆円程度でしょう.試算方法次第でこの額は変わりますが,いずれにせよ,1700兆円どころか1000兆円ですらないのは明白なので,大臣発言について,ここを鵜呑みにすることはできません.政治家の武器は言葉ですので,根拠ある数字の説明が欲しいです.

したがって,麻生大臣の発言は半分は正論ですが,半分は説明不足のため,麻生大臣発言は必ずしも「ぐう正論」とは言えない,というのがこのエントリーの結論です.


【追記】2016年6月23日 なお,麻生大臣の今回の「言葉遣い」については後援会向けの講演会ネタ以上でも以下でもないのでどうとも思わない,というのが私の感想です.

しかし,マスコミに言葉尻を捉えられるような脇の甘い発言を繰り出すと結局釈明せざるを得なくなります.このことをいつまでたっても学習しないことが今回また露呈しました.

麻生太郎氏「90歳、いつまで生きてるつもりだ」発言を釈明 「前後の文脈を見て」


参院選への投票材料の一つとさせていただきます.


ではまた!