おまきざるの自由研究

好奇心の赴くままに

厚生年金強制加入は零細企業の雇用を脅かす

【スポンサーリンク】

それは堀江貴文さんのつぶやきから始まった



年末はまだ堀江さんをフォローしてなかったので,プロブロガーとして有名なイケダハヤトさんのリツイートでこのつぶやきを知った. 

思わず,厚生年金関係で聞いた話(ソースは明かせません)「ざっくり言うと,社員4人の零細企業が厚生年金に加入させられたら,1人クビ切らなきゃ会社潰れるんですよ」を返信してみたら,堀江さんからこうリプライがかえってきた.想定外だった.



そして事件は起こった.

f:id:browncapuchin:20160107054859p:plain

これは筆者のメーラーの受信トレイだ.

「○○さんがあなたへの@ツイートをリツイートしました.」
「○○さんがあなたへの@ツイートをいいねしました.」
「○○さんがあなたへの@ツイートをリツイートしました.」
「○○さんがあなたへの@ツイートをいいねしました.」
「○○さんがあなたへの@ツイートをリツイートしました.」
「○○さんがあなたへの@ツイートをいいねしました.」

・・・正直言って怖くなった.この手のメールが来ないよう,ツイッターのメール通知機能の設定を変更したのは言うまでもない.


ここで話を終えてもいいのだが,
「ざっくり言うと,社員4人の零細企業が厚生年金に加入させられたら.1人クビ切らなきゃ会社潰れるんですよ」
という自分のツイートには始末をつけなきゃならない.なお,企業と会社は厳密には意味が違うので,ここでは企業=会社(法人)+個人事業主としておく.

厚生年金保険料17.828%(労使折半)

自営業者・個人事業主は国民年金,普通の会社員は厚生年金に入る.
前者は自分で毎月保険料を払う.月額1万5,590円(記事執筆時点)だ.前納すれば少し安くなる.

後者の保険料は勤め先と本人で折半する(労使折半).
保険料は給料の17.828%だ(2015年9月より).

つまり,会社側と本人とで8.914%ずつ負担している.

例えば,月給30万円のサラリーマンの保険料は5万3,484円,労使それぞれの負担額は2万6,742円となる.

会社全体の負担はどうなるだろうか?

社長1人の会社でも,法人なら厚生年金に加入しなければならない.ここでは,社長1人(月給62万円),社員3名(月給30万円)の架空の会社(以下,「はてな社」とする)で計算してみる.

社長の厚生年金保険料は5万5,266.8円,社員は2万6,742円×3人=8万226円.
合計の厚生年金保険料は13万5,492.8円だ.これは1ヶ月分なので,ボーナス等を考慮しないことにすれば13万5,492.8円×12=162万5,913.6円.「はてな社」の厚生年金保険料は年額約162万だ.

「はてな社」がこれまで厚生年金に加入していなかった場合,会社の年商から新たに約162万円を負担しなければならない.つまり,今は利益を出している会社(利益計上法人)だって,新たに厚生年金保険料を負担することでその利益が吹き飛ぶかもしれないのだ.

では,「はてな社」は課税所得がいくらまでなら赤字に転落しないのだろうか?

課税所得が400万円以下の場合,総合税率は22.45%となる.とりあえずこの数値を用いて「はてな社」が新たに厚生年金加入した場合,所得課税がいくらまでなら162万円の厚生年金保険料を負担できるかざっくり計算してみた(実効税率等は無視する).

 

課税所得別税額(課税所得400万円以下,総合税率22.45%で計算)
A. 課税所得(万円) B.課税額(万円) C. A-B-厚生年金保険料(万円)
400 89.8 148.2
350 78.6 109.4
300 67.4 70.7
250 56.1 31.9
240 53.9 24.1
230 51.6 16.4
220 49.4 8.6
210 47.1 0.9
200 44.9 -6.9
190 42.7 -14.7
180 40.4 -22.4
170 38.2 -30.2
160 35.9 -37.9
150 33.7 -45.7
厚生年金保険料は162万円とする(本文参照)

 

すると,「はてな社」の場合,課税所得210万円の段階で厚生年金に強制加入させられて保険料162万円を新たに納めるようになった場合,利益はほぼ無くなることがわかる.さらに,課税所得200万円になると赤字に転落する.

つまり,今は課税所得がプラスの会社であっても,厚生年金を新たに負担した途端,赤字に転落する場合があるのだ.

厚生年金加入逃れ75万社のうち,74万4千社は中小企業

2015年12月29日の朝日新聞朝刊によると,

厚生年金の加入資格があるのに国民年金に入っている人が全国に推計で約200万人いることが,厚生労働省の調査でわかった.(略)保険料の全額を加入者が負担する国民年金とは違い,厚生年金は保険料を労使で折半するため,雇い主が保険料の負担を嫌がって年金事務所に届け出ないことがある.厚労省によると,約75万社にこうした「加入の逃れ」の疑いがある.(略)


【注:2016年1月19日読売新聞朝刊には,「厚生年金の加入対象となる事業所は現在全国に約79万社あるという」と記載されていたが,本稿では75万社としておく】

この「厚生年金に未加入と思われる企業」のほとんどが中小企業とみられる.全企業数に占める中小企業の割合が99.7%,全会社数でも99.2%だからだ.

中小企業庁:FAQ「中小企業白書について」

つまり,厚生年金に未加入と思われる75万社のうち,74万4千社は中小企業の会社ということだ.

厚生年金未加入と推測される赤字中小会社は約50万社

平成25年度分「会社標本調査」 調査結果について|報道発表資料(プレスリリース)目次|国税庁によれば,利益計上法人が82万3,136社,欠損計上法人が176万2,596社.

全企業にしめる赤字企業の割合はじつに68.2%である.

したがって,上で74万4千社と推計した厚生年金未加入の中小企業の会社のうち,赤字なのは

74万4,000×0.682=50万7,408社と推計される.

つまり,架空の4人零細企業はてな社のような年額162万円の厚生年金保険料を払う余力がもともとない赤字会社は約50万社もあるのだ.

社員4人の零細企業が厚生年金に強制加入させられたら1人クビ切れば会社は助かる

厚生年金の負担が著しく困難な会社が厚生年金に強制加入させられる場合,現実的な対応策は次の3つだろう.

1.社員の給料を減らす
2.法人を解散する
3.社員を減らす

1については,同じ仕事してるのに給料だけが減らされるなんて納得いかなくて当然だ.

2については,会社が潰れたら元も子もない.勘弁してくれ.

じゃあ,給料も減らさず,会社も存続させるとすれば,どの手段がもっとも現実的に起こりそうだろうか?

「はてな社」の場合,「社員4人の零細企業が課税所得200万円のとき厚生年金に強制加入させられたら1人クビ切らなきゃ会社が潰れる」状態にある.

ならどうすればいいのか?そう,当然答えは3だ.社員を一人減らせばいいのだ.社員一人に支払う給料年額分360万円さえあれば,162万円の厚生年金保険料を補って余りある.それどころか,保険料は一人分減ったので130万5,009.6円になる.

「社員4人の零細企業が厚生年金に強制加入させられたら1人クビ切れば会社は助かる」,かもしれない.

そういうことだ.

【スポンサーリンク】

 




赤字中小企業50万社がそろって1人ずつ社員のクビを切れば厚生年金に加入しても潰れないかもしれない.だが,そうすれば会社は存続できても50万人もの失業者が生じる.2015年11月時点の完全失業者は209万人統計局ホームページ/労働力調査(基本集計) 平成27年(2015年)11月分結果)だというのに,さらに50万人増えるのだ.もちろん,失業者が1人では済まない会社もあるだろうから,その数はもっと増える.

無論,社員のクビ切ったあと会社の仕事が回るかどうかなんて誰も知ったこっちゃない.

それどころか,「そんな企業は潰れてしまえばいいと思うよ」,と堀江さんはツイートした.ならば,お望み通り全部潰してみよう.

赤字会社約50万社を潰せば失業者は330万人増える?

大企業と中小企業の定義や平均年収、企業数の違いによれば,中小企業従業員数は2,784万人,中小企業は419.8万社だ.したがって,平均中小企業従業員数を2,784万/419.8万=6.6人とすれば,厚生年金保険料を負担できない赤字中小企業の会社50万社を潰せば330万人もの失業者が生じる計算になる.もっとも,この数値はウルトラスーパーざっくりすぎる.個人事業主を含んでいるからだ.

冒頭でも引用した中小企業白書によれば,中小企業数(会社数+個人事業者数)は、約432.6万社,中小企業の会社数は約150.8万社である.つまり,個人事業者数は281.8万人と推定される.上の2,784万から個人事業者281万を除けば2503万人になる.これを150.8万で割ると16.598人となる.つまり,その規模の会社50万社が潰れたら800万人以上の失業者が出てしまう計算になってしまう

そんなことはまずありえない.だが,事業所得が低くて社員数が多い会社ほど厚生年金保険料の負担は大きくなる.厚生年金強制加入によってそういう会社の中に潰れるところが出てきても何らおかしくない.その規模がいかほどになるのかなんて,筆者にはわからない.でも,会社が潰れたら失業者がでる.それだけは確かだ.

堀江さんのリツイート「そんな会社は潰れていいと思うよ」を「いいね」したフォロワーは,54アカウント(2016年1月7日現在)だった.それも一つの意見だ.否定しない.でも,彼らは会社が潰れたら失業者が出ることを想像したのだろうか?

一方,社員のクビを切らなくていいような会社に成長すれば良いとつぶやいた方が1名いた.筆者はこちらのツイートに「いいね」をクリックした.それだけのことだ.路頭に迷う人は少ない方がいい.そして,社員のクビを切らずにすむ方法をなんとかするような社長がいる会社が多ければ多いほどいい.

大所高所から企業のあり方についてモノを言う人が世の中にいてもいい.でも,そうじゃない人だっていてもいい.そして,そうじゃない人のほうが世の中には圧倒的に多い

f:id:browncapuchin:20160107140424p:plain

おわりに

会社が負担する社会保険料は月額給与の15%とのことである(会社負担は社員給与の15%!社会保険料シミュレーション).その負担に耐えられる会社は厚生年金に強制加入させられても問題なかろう.これまで厚生年金を支えてきた普通の会社はたくさんあるのだから.

だが最後に一つ付け加えておく.厚生年金強制加入には罰則がある.もし,年金事務所の指導にしたがわず厚生年金に加入しなかった場合は,強制加入させられた上,2年さかのぼった分の保険料支払いを余儀なくされる.「はてな社」の場合なら,誰一人クビを切らなかった場合,加入した年の保険料162万円を負担させられるだけじゃなく,さらに2年分の324万円も払わなければならない.しかも,それだけじゃ済まない.社員一人ひとりも2年分の自己負担保険料を自分で払わなければならないことを忘れてはいけないのだ.一人当たりの負担は64万1,808円.会社の負担も社員個々人の負担もますますかさむ.それが何を引き起こすかは言うまでもない.

そして,たいていのケースでは社員の月々の手取り額は強制加入前より減る.会社の利益も社員の給料も厚生年金加入によって削られる.将来,いったい何歳になったら支給されるのか,あるいは本当に支給されるのかどうかすらわからない厚生年金のために.

さて,あなたが勤めている/経営している会社はどうだろうか?法人になってるけど厚生年金に加入していないプロブロガーは大丈夫だろうか?年金事務所の魔の手はすぐそこまで迫っている.しかもその精度は,マイナンバーという年金加入逃れを確実にあぶりだすレーダーが稼働すれば今以上にあがる.もう逃げ場はないのだ.税理士は今が今世紀最大の稼ぎどきなのだろう.

 

ではまた!


【追記】2016年1月19日読売新聞朝刊3面に「厚生年金の保険料負担に耐えられず,倒産や従業員の解雇につながる可能性がある中小零細企業にまでは,加入を強制できない」ため刑事告発しないとの記事が掲載されていた.

しかし,実情は違うようだ.刑事告発については知らないが,年金事務所は社長の給料を削らせてでも保険料を捻出させ,厚生年金強制加入を「強制」してくる.ソースは明かせないが知り合いの零細企業経営者がそう言っていたのを私は忘れられない.

<関連記事>
奨学金貸与に必要な保証人と連帯保証人の恐ろしい違い
麻生大臣発言は「ぐう正論」なんだろうか?

高校の担任から「50万円用意しろ」と言われました:大学受験事情2016