おまきざるの自由研究

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君は2つのマクドナルド理論の末路を知っているか?

当記事はプロモーションを含んでいます。

マクドナルド理論をご存じでしょうか?知っている、という方は少なくないかもしれません.でもマクドナルド理論が2つあることを知っている方は多くないでしょう.

このエントリーでは2つのマクドナルド理論について,そしてそれらの末路について紹介します.

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理論とは?

「理論とは何ぞや?」と聞かれたらあなたはどう説明するでしょうか?

広辞苑(岩波書店第5版)にはこう書かれています.

り‐ろん【理論】
(1)(theory)
 (ア)科学において個々の事実や認識を統一的に説明し、予測することのできる普遍性をもつ体系的知識。
 (イ)実践を無視した純粋な知識。この場合、一方では高尚な知識の意であるが、他方では無益だという意味のこともある。
 (ウ)ある問題についての特定の学者の見解・学説。
(2)論争。〈日葡〉

 

逆引き広辞苑で「理論」とひけば,いくつもの○○理論が出てきます.その多くは(ア)の普遍性をもつ体系的知識」に該当します(現時点では)

その一方,(ウ)にすら至らない"theory"も世の中にはたくさんあります.その一つ,いや二つがマクドナルド理論(McDonald's Theory)でした.

とあるマクドナルド理論

このマクドナルド理論,聞いたことのある方は少なくないかもしれません.

職場でのお昼時,どの店でランチを食べるのか決めようとしていたとき,誰もアイデアを出さなかったとします.そのとき,このマクドナルド理論の発案者John Bell氏は「マクドナルド」を勧めました.

すると,「マクドナルドには行かない」と皆が全会一致し,より良いランチの提案が現れるのです.(原著を意訳) 

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2013年5月の「マクドナルド理論」を使うとより優れたアイデアが出てきてプロジェクトが進行する - GIGAZINEにはこうあります.

Bellさんのマクドナルド理論とは「実行可能なアイデアのうち最低のもの」を提案することによって、ディスカッションが始まり、人々が急にクリエイティブになることを言います。最悪のアイデアを実行しないために、人々はよいアイデアを出そうとするのです。 

 

「ベルのマクドナルド理論」(と呼ぶことにします)は,マクドナルドを「ランチで選択しうる最低のお店」としています.Bell氏がそう思うに至った理由はわかりませんが,2011〜2014年のマクドナルドの業績が芳しくなかったことは確かです.

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http://corporate.mcdonalds.com/content/dam/AboutMcDonalds/Investors/2016%20Annual%20Report.pdf

 

「ベルのマクドナルド理論」は本人が"Medium"(https://medium.com)で公表したものです.その時期は2013年4月末と思われます.思われます,というのはこの記事がすでに消去されているので今となっては確かめようがないからです(筆者は2017年5月に原著を目にしていましたが、当記事初稿の2017年10月時点では保存する前に消されてました→【2024.2.4】いつの間にか復活してました).ただし本文は本人のページのリンクに残されていますMcDonald’s Theory – UX Launchpad – Medium)→【2024.2.4】本人ページにはリンクがありませんでした

もし,Bell氏が「ベルのマクドナルド理論」に自信を持っているのなら記事を消去する必要はなかったはずです.

しかしながら,記事を引っ込めたということは,「この"theory"は普遍性はおろか見解としても成立しないと自ら悟った」、そう思われてもしかたありません.

もしかしたら,その後の米マクドナルド業績回復を鑑みてマクドナルドを最低のアイデアとして引き合いに出すのはマズイと考えたのかもしれませんね. →【2024.2.4】当記事はMedium"に「ベルのマクドナルド理論」がなかったことを確認してから初稿を書きました。今は復活していますが、この間の事情は知るよしもありませんので、以下は初稿時のままとさせていただきます。

もうひとつのマクドナルド理論

マクドナルド理論はBell氏のもの以外にもう一つあり,実はこちらのほうが先に提出されています.

それは2000年に出版されたトーマス・フリードマン著『レクサスとオリーブの木』下巻冒頭pp.8-9に書かれている「黄金のM型アーチ理論」です.

1999年の半ばの時点で,マクドナルドを有する任意の二国は,それぞれにマクドナルドができて以来,互いに戦争をしたことがない.(中略)

自分が立てた命題にひどく興味をそそられたので,イリノイ州オークブルックにあるマクドナルド本社(筆者注:本社は今もそこにあり2016年5月には賃上げデモによって一時的に閉鎖された)にあるマクドナルド本社を訪れて,これを伝えた.相手もかなり興味をそそられたため,わたしは,マクドナルド社内の研究訓練施設,マクドナルド大学に招かれて,数人の国際管理職を相手に理論の検証をした.マクドナルドのほうは,社内の国際専門家全員がわたしのモデルを調べて上で,やはり例外が見つからないことを確認した.(中略)

このデータを武器に,わたしは"紛争防止の黄金のM型アーチ理論"を提唱する.当理論では,ある国の経済が,マクドナルドのチェーン展開を支えられるくらい大勢の中流階級が現れるレベルまで発展すると,そこはマクドナルドの国になる,と規程する.マクドナルドの国の国民は,もはや戦争をしたがらない.むしろ,ハンバーガーを求めて列に並ぶほうを選ぶ.(青太字は筆者による)

 

フリードマンのマクドナルド理論「黄金のM型アーチ理論」は,当時は確かに妥当でした.

けれど,「後にコソボ紛争(アライド・フォース作戦)と南オセチア紛争(2008年)が起きたことで批判を浴びている」トーマス・フリードマン - Wikipediaとのことです.

ちなみに今はイスラエルとレバノンにもマクドナルドの店舗があるのですが(Discover McDonald's Around the Globe :: McDonald’s)・・・両国間では2006年に紛争が勃発しています(レバノン侵攻 (2006年) - Wikipedia).

したがって「黄金のM型アーチ理論」も普遍性を欠くため残念な"theory"と言わざるを得ません.

 


ちなみにフリードマンはやがてイランにもマクドナルドが進出すると予想していました(pp.30-35の「イランにマクドナルドが来る日」の末文はこうです:「イランの石油資産が底をつきかける日を,教えてくれないか.そうすればゴルバチョフ師がここに登場する日を教えよう」そして,マクドナルトの黄金のアーチが登場する日も)

でも米国の対イラン経済制裁は今だに解除されていないことを付け加えておきます.

注:マクドナルドのロゴマークの黄色い「M」からマクドナルドは"The Golden Arches"とも呼ばれているとのことです(マクドナルド - Wikipedia).

古本を購入しましたがものすごく安かったです・・・

2つのマクドナルド理論の末路が示すこと

以上,二つのマクドナルド理論をざっと紹介しました.

どちらも思いついた時点ではそれなりに機能したのかもしれません.

しかしながら,「ベルのマクドナルド理論」は本人が引っ込めてしまいました.

フリードマンの「黄金のM型アーチ理論」は反証の憂き目に遭っています.

【2022年2月20日追記】マクドナルドが営業している/していたウクライナとロシアの間でも2022年2月20日に戦争が起きてしまいました・・・


とある2つのマクドナルド理論の末路が物語るのは理論と思いつきの彼我の差です.

SNSの発達で自分の「思いつき」を発信するのはたやすくなりました.一方で、一度発信してしまった思いつきが拡散されるのも速くなり,同時に検証もされやすくなりました.

30年前だったら,世界のどの国にマクドナルドの店舗があって,その国同士で紛争・戦争が起こったどうかを調べるのはかなりの大仕事だったでしょう.それが今では自宅やオフィスあるいはスタバで,いやちょっと立ち止まってスマホで調べればすぐわかってしまいます.

自分の意見や思いつきをtheory・理論と呼んで発信するのはたやすいです.

しかし,それが理論に値するかどうかを検証されることもまたたやすいことなのです.

くれぐれもご注意ください.

ではまた

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