おまきざるの自由研究

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【会話形式でさくっと学ぶDNAの基礎の基礎⑥】tRNAと翻訳

当記事はプロモーションを含んでいます。
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 はじめに:会話の設定

このエントリーでは,「tRNAとタンパク質合成:翻訳」について,2人の会話形式で簡潔に説明します.

<会話の設定は以下の通り>  

某女子大で生物系の講義を担当中の尾巻講師(いつも白衣着用)が大学3年生の都子さんと大学図書館の入り口で立ち話をしています.

●都子さんは1年生のとき「生物学の基礎」を履修したのでDNAの基礎知識を持っています(注:しかしながら,9割くらいの女子大生は3年生になるときれいさっぱり忘れているようです・・・).

●都子さんは尾巻講師のとある講義を履修しています.なお,尾巻講師は教員棟へ行く途中,都子さんが学食で昼食を食べているところをすでに見かけていました.

以下のエントリーを順に通読いただけると,DNA→RNA→タンパク質合成(翻訳)まで一連の流れを掴めます.ぜひどうぞ.

DNAの4つの塩基:ATGC
DNA複製
DNA修復
DNAからRNAへの転写
DNA・RNAの基礎の基礎:選択的スプライシング
tRNAと翻訳←今ココ!
DNAと遺伝子の違い

女子大生と講師による翻訳の会話

 

都子さん,こんにちは.あれ?さっき学食で食べてたような・・・またお昼ご飯食べるの?

 

 

 

 

先生,こんにちは.このお弁当は友達の分ですよ!
「買ってきて」ってメモ渡されたんです.

 

 

 

 

頼まれた分を運搬してるんですか.まるでtRNAですね.

 

 

 

 

そういえばNHKスペシャル『人体III』遺伝子〜DNA第1集のDVDにもtRNAが出てきました.でも画面からすぐいなくなったし説明もなかったんでよくわかりませんでした.てへぺろ

 

 

 

 

てへぺろじゃないでしょ・・・でも確かにDVDの説明は不親切だったと思いますので,今日はtRNAの働きと翻訳について簡単に説明しましょう

 

 

 

 

じゃ,DNAについてちょっと復習します.

ヒトのDNAは4つの塩基:A(アデニン)とT(チミン),そしてG(グアニン)とC(シトシン)の間で対になる性質があって,二重鎖を作ります.しかも二重鎖DNAを複製して,増えた細胞にも受け渡す.

前々回のままです.

 

 

 

 
うん,そこは削りようがないから.そしてこのフキダシの前半も同様です.

DNAは細胞の中のと呼ばれる所に格納されていて,そこから動かない.言い換えれば核は図書館みたいなものかな.

でも,収蔵されているのは貸し出し不可のものすごく重要な書物なんだ.この書物に書かれている情報が塩基配列とイメージするとわかりやすいかもしれないね.

そして,DNAのうち,特定のタンパク質を作るための塩基配列領域が遺伝子.

でも,タンパク質を合成するには遺伝子の情報を核から別の細胞小器官(リボソーム)に伝えなければいけないんだ.その役割を担うのが,都子さんが前々回パシリと呼んだmRNA(メッセンジャーRNA・伝令RNA)だったね.

ところで,タンパク質は何から出来てたんでしたっけ?

 

 

 

 

タンパク質は・・・アミノ酸です!

DVDではアミノ酸がいくつも結合して一つのタンパク質になってました.

 

 

 

 

そうそう.タンパク質は特定のアミノ酸が特定の順番で結合して作られます.でも,DNAに保存されているのは塩基の並び=塩基配列にすぎません.

DNAのうち,特定のタンパク質を作るための情報が遺伝子,そして遺伝子の情報をリボソームに運ぶのがmRNA.でも,mRNA自体は情報を伝えるだけでアミノ酸を運ぶわけじゃないんだ.

 

 

 

 

そこで運び屋の登場ですね!それがtRNA?

 

 

 

 

そうです.転移RNAもしくは運搬RNA,たいていは"トランスファー"のtを使ってtRNA(トランスファーRNA)と書きます.RNAというのは,DNAととても良く似た構造をもつヌクレオチドでリボヌクレオチドと言い,「RNAの構成単位」となります.

これも復習だけど,DNAの4つの塩基はA,T,G,Cだったね.
そしてRNAの4つの塩基はA,U(ウラシル),G,C

U(ウラシル)はDNAのヌクレオチドのうち,A(アデニン)と結合します

 

 

 

 

前回も使ったけど,ホビヲノエのDNAのイラストを使って練習してみましょう.

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A:①がタンパク質合成に必要な塩基配列です.
5'-ATG GTC AGA-3'→①
3'-TAC CAG TCT-5'→②

B:二重鎖DNAが開裂されます.
5'-ATG GTC AGA-3'→①


3'-TAC CAG TCT-5'→②


C:②を鋳型にして,RNAのヌクレオチドが結合します.RNAを赤太字で書くと,こうなります.
5'-ATG GTC AGA-3'→①

5'-AUG GUC AGA-3'
3'-TAC CAG TCT-5'→②

 

 

 

 

5'-AUG GUC AGA-3' これがパシリことmRNAですね!

ところで,このmRNAの塩基配列にはどんな意味があるんですか?mRNAが何を指すのかわからないと,運び屋tRNAが何を運ぶのかわかりませんよね?

 

 

 

 

都子さん,今とても良いことを言ったね.じゃあ,まずはmRNAの意味からみていこう.
5'-AUG GUC AGA-3'

便宜上,このシリーズ通してすでに3塩基ずつ表記してあります.実は3という数がとても重要です.

引用します.「1961年に,mRNA分子の塩基配列は連続した3個ずつのグループ(トリプレット)として読み取られることが判明した.(中略)RNAの連続した3個のヌクレオチドはコドン codon とよばれ,それぞれ1つのアミノ酸を指定する.(Essential細胞生物学p.239)」

3塩基のひとまとまりをコドンと呼びます.とても大切なので,大きな文字にします.

コドン

 

 

 

コドン,ですね!うどんとか言いたくなるけどなしにします.

それぞれのコドンがアミノ酸を示す,と.じゃあコドンAUGは何ですか?

 

 

 

 

mRNA 5'-AUG GUC AGA-3' 

AUGは開始コドン兼メチオニン
GUCはバリン
AGAはアルギニン

mRNAの3つのコドンはこれらのアミノ酸を意味するんだ.

タンパク質はアミノ酸が結合して作られるけど,AUGは「mRNAの情報を使ってタンパク質をつくる(翻訳)」起点になるんだ(下線部はEssential細胞生物学p.224から引用).

ようやく翻訳という言葉が登場しました.

翻訳とはmRNAによって伝えられた塩基配列情報をアミノ酸に置き換えること.その際,リボソームまでアミノ酸を運んでくる分子がtRNAなのです.

mRNAによって伝えられたコドンの順番通りに,指定したアミノ酸をtRNAが運んでくる.その結果,アミノ酸がいくつも結合してタンパク質ができあがる.これが翻訳です.

 

 

 

 

なるほど〜.mRNAのコドンに従ってtRNAがアミノ酸を運んでくる.私が友達から渡されたメモに書いてあるお弁当を運ぶようなものですね.

じゃあ,mRNA 5'-AUG GUC AGA-3'の指示が意味するのは?

 

 

 

 

mRNA 5'-AUG GUC AGA-3'が意味するのは,

ここから翻訳を開始,そしてメチオニン・バリン・アルギニンをこの順番に運んできて結合させなさい,ということなんだ.もちろん,これは架空の配列だけどね.

例えばインスリン遺伝子の場合だと,翻訳によってまず110個のアミノ酸が結合されます.翻訳はAUGに対応するアミノ酸,すなわちメチオニンから始まり,順にアラニン,ロイシン,トリプトファン,メチオニン,・・・,アスパラギンを結合,mRNAの最後は「ここでお終い」を示す終止コドンのUAGになってるのでアスパラギンの後にはもうアミノ酸は結合しません(『やさしいバイオテクノロジーカラー版』pp.96-97参照).

 

 

 

 

今ので憶えた・・・

 

 

 

 

アヌビス神のスタンドはお約束ということで,ご了承ください.

 

 

 

 

ところで,tRNAはどんなアミノ酸でも運んでくるんですか?というかアミノ酸って何種類あるんですか?

 

 

 

 

いい質問ですね.まず,アミノ酸の種類からいこうか.

tRNAが運ぶアミノ酸は20種類.この20種類に対するコドンは64あります.なぜかというと,4種類の塩基が3つで1つのコドンだから4×4×4=64.

 

 

 

 
でもコドンが64種類あるのに,アミノ酸は20しかないから数が合わない.それは,コドンとアミノ酸は一対一対応じゃなくて,1つのアミノ酸に複数のコドンが対応しているものがあるからなんだ.

終止コドンのUAA,UAG,UGAを除くと,一対一対応なのは開始コドン兼メチオニンのAUGとトリプトファンのUGGだね.

他の18種のアミノ酸には2〜6のコドンがあります.
例えば,ロイシンのコドンはUUA,UUG,CUU,CUC,CUA,CUGになってます.

 

 

 

 

ふんふん

 

 

 

 

次は「tRNAはどんなアミノ酸でも運ぶのか」,という質問についてだね.

答はNo.

メチオニンを運ぶtRNAやトリプトファンを運ぶtRNAは決まってるんだ.

 

 

 

メチオニンのコドンはAUGだったね.メチオニンを運ぶtRNAは,AUGというmRNAのコドンに対合する(相補的配列を持つ)特別な3塩基を持っています.その特別な3塩基のことをアンチコドンと呼びます.

仮に,さっきのmRNAの配列に対するアンチコドン(緑)を表記するとこうなります.
5'-AUG GUC AGA-3'
3'-UAC CAG UCU-5'→アンチコドン

3'-UAC-5'というアンチコドンをもつtRNAはメチオニンと結合・運搬する.
3'-CAG-5'というアンチコドンをもつtRNAはバリンと結合・運搬する.
3'-UCU-5'というアンチコドンをもつtRNAはアルギニンと結合・運搬する.

 

もちろん,運搬し終えたらtRNAとアミノ酸の結合は外れます(mRNAのコドンとtRNAのアンチコドンの結合も外れます)

なお.一対一対応だったら64から3つの終止コドンを引いた残り61のtRNAがあるはずだけど,通常はこれより少ないtRNAしか存在しないし,1つの翻訳系で使われるtRNAは30〜40らしいんだ(転移RNA - Wikipedia).だからコドンとアンチコドンは完全な一対一対応ではないんだよ.

ここまでいいかな?

 

 

 

zzzzz

 

 

 

 

アンチコドンの話になると女子大生の睡眠率は高くなる・・・今回のお話はここまでとします

 

 

 

 

起きました!要するに,パシリ(mRNA)が持ってきたメモにしたがって,メチオニンならメチオニン係のtRNAがメチオニンを運ぶと.

スーパーでよく聞く「お酒担当◎◎さん,3番レジまでキ○ン一番○りサンゴー缶1ケースお願いします」みたいな感じで,メチオニン担当tRNAとかグルタミン酸担当tRNAとかに細分化されてるイメージを持ちました!

 

 

 

 

えーっと・・・まあそんな感じで当たらずとも遠からずかな?

それはそうと,もとのDNAの塩基配列に変異が生じたら,tRNAはどんな働きをすると思う?

例えば
5'-ATG GTC AGA-3' が
5'-ATG GTC TGA-3'  に変異したらどうなるでしょう?

 

 

えーっと・・・開裂のとこは割愛します.mRNAを赤で表すと

5'-ATG GTC TGA-3'
     ↓
5'-AUG GUC UGA-3'

あっ!3つ目のコドンがAGA(アルギニン)からUGA(終止)になってるから,翻訳が始まってもメチオニン・バリンを結合しただけでアミノ酸が結合しなくなっちゃう.

本来合成されるはずのタンパク質が作られなくなって,なんだかとってもやな感じになると思います・・・

 

 

 

 

正解です(最後の文は前回のまんまだけど).

mRNAはDNAの塩基配列に変異があろうとなかろうと写し取り,それに従ってtRNAがアミノ酸を運んだり,運ばなかったりします.

だから,おおもとのDNAに何らかの変異が生じると,場合によっては転写・翻訳を通じてタンパク質合成に何らかの重大な影響をおよぼすことがあるんだよ.


という訳で,とりあえず今回も含めて7つのエントリーでDNA〜遺伝子〜転写〜翻訳について基礎の基礎を説明してきました.長かったね.

 

 

そうですね.もうプロ野球シーズンも終わっちゃいました.

横浜DeNAはやっとAクラス入り・クライマックスシーズンで巨人撃破という快挙の年だったのに,親会社はキュレーションメディア事業で散々.このシリーズ開始当初はまさかこんな事態になるとは思ってもいませんでした.

ところでこのシリーズ,今後の展開はどうするんです?

 

 

 

うん,とりあえずDNAから翻訳までの一連のプロセスを10分くらいで読めるようにまとめる予定です.それを読んでDNAからタンパク質の流れがわかれば,こんな記事も読みやすくなると思います.

browncapuchin.hatenablog.com
ではまた!!

 

参考書

<記事執筆に使用した参考書・DVD>


・Essential細胞生物学(原書第4版)
・やさしいバイオテクノロジー カラー版 遺伝子の基礎知識からiPS細胞の話題まで(サイエンス・アイ新書)
・NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体III 遺伝子~DNA 第1集 生命の暗号を解読せよ~ヒトの設計図~ [DVD]

<おすすめ参考書>
もっと知りたい方は「数ある国際的な科学賞を総なめにした日本を代表する研究者が,10年以上にわたって磨きをかけてきた京都大学の名物講義をもとに書き下ろす」と帯に銘打つこの本の,特に第3章がオススメです.

tRNAがアミノ酸を運ぶことにより,タンパク質は合成される

 ◆私たちの細胞の中では絶えずタンパク質が合成されています.タンパク質は遺伝子の塩基配列に基づいてアミノ酸を結合することによって合成されます.

◆タンパク質合成にはDNAの遺伝子をRNAが転写することによるmRNAの合成,そしてmRNAの情報の基づいてtRNAがアミノ酸を運んでくるという翻訳というプロセスがあります.

◆tRNAは75〜80の塩基(と糖・リン酸分子)で構成されている一本鎖RNAです.実際は立体構造(下図右)ですが,立体構造をそのまま表現してもイメージしにくいため,下図左のような図で表現されることが多いです.

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高等学校生物/生物基礎‐遺伝情報とタンパク質の合成 - Wikibooksより引用)

 

図左の場合,アミノ酸が結合しているのはtRNAの末端部分に当たります.結合の方向は5'→3'なので,アンチコドン5'-CAU-3'に対応(結合)するmRNAのコドンは5'-AUG-3'です.したがって,この図のtRNAに結合しているアミノ酸はメチオニンになります.

◆次の表が「コドン表」です.

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http://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/first/protein/about/what.htmlより引用)

フキダシに書いた通りですが,この表には64種のコドンとそれに対応する20種類のアミノ酸および終止コドンが表記されています(メチオニンは開始コドンを兼ねていますが,mRNAの途中に出現した場合はメチオニンを指定するだけとなります).

◆細胞内でのタンパク質合成は,リボソームと呼ばれる細胞小器官で行われます.リボソームにはリボソームRNA(rRNA)が存在しますが,ここでは割愛します.

◆このエントリーで紹介したのは翻訳の基礎の基礎です.翻訳には開始・伸長・終結の3段階がありますが,長くなるので割愛しました.


ではまた!

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